不安や悩みを抱えることは誰にでもありますが、その不安が過度に強く、日常生活に支障をきたす場合、「不安症(不安障害)」かもしれません。もしかして自分は不安症かも、どうすればこの不安を乗り越えられるのだろう、とお悩みの方へ。この記事では、不安症の原因や主な種類、病院での専門的な治療法から、ご自身で今日からできる改善方法まで、不安症の治し方について網羅的に解説します。不安を克服し、より穏やかな日々を送るための一歩を踏み出す手助けになれば幸いです。
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不安症(不安障害・不安神経症)とは?原因と種類
不安症(不安障害)は、特定の状況や対象に対して、あるいは理由なく、強い不安や恐怖を感じ、それによって心身に不調が現れたり、日常生活に支障が出たりする精神疾患の総称です。以前は「不安神経症」とも呼ばれていましたが、現在では「不安障害」という診断名が一般的です。単なる性格的な問題や気の持ちようではなく、治療が必要な病気として認識されています。
不安症の原因とは?セロトニン不足も関係?
不安症の原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。主な原因としては、以下のものが挙げられます。
1. 生物学的要因
- 脳機能・神経伝達物質のバランスの崩れ: 脳内の神経伝達物質、特にセロトニン、ノルアドレナリン、GABA(ギャバ)などのバランスが崩れることが不安症の発症に関与していると考えられています。これらの物質は、感情や情動、ストレス応答などを調整する役割を担っています。例えば、セロトニンは心の安定や幸福感に関わる物質であり、その不足がうつ病だけでなく、不安症、特に全般性不安障害や社交不安障害などに関わっている可能性が指摘されています。薬物療法では、これらの神経伝達物質の働きを調整する薬が用いられます。
- 遺伝的要因: 家族の中に不安症の人がいる場合、自身も発症しやすい傾向があることがわかっています。ただし、遺伝だけで決まるわけではなく、あくまで体質的な傾向として捉えられます。
- 脳の構造・機能の偏り: 扁桃体(恐怖や不安を感じる部位)や前頭前野(感情をコントロールする部位)など、脳の特定部位の活動や構造に偏りがあることが研究で示されています。
2. 心理的要因
- 性格特性: 心配性、内向的、完璧主義といった性格傾向を持つ人は、不安を感じやすい傾向があると言われます。
- 過去の経験: 幼少期のトラウマ(心的外傷)、親からの過度な期待や否定、いじめ、虐待などの経験が、その後の不安症の発症に影響を与えることがあります。
- 認知の歪み: 物事をネガティブに捉えがち、自分を過小評価する、最悪の事態ばかり想像するといった認知の癖が、不安を増幅させることがあります。
3. 環境的要因
- ストレス: 仕事や人間関係の悩み、引っ越し、昇進、失恋、大切な人との死別など、様々な種類のストレスが引き金となることがあります。特に、慢性的または突発的な強いストレスは、不安症の発症リスクを高めます。
- 生活習慣: 睡眠不足、不規則な生活、栄養バランスの偏り、カフェインやアルコールの過剰摂取なども、自律神経の乱れを招き、不安を感じやすくすることがあります。
- 身体疾患: 甲状腺機能亢進症や不整脈など、身体の病気が原因で不安のような症状が出ることがあります。そのため、不安症の診断には身体的な病気の可能性を除外することも重要です。
これらの要因が単独で作用するのではなく、いくつかが組み合わさることで不安症が発症すると考えられています。特にストレスとセロトニンなどの神経伝達物質のバランスの崩れは、多くの不安症に共通する要因として注目されています。適切な治療では、これらの複数の要因に働きかけるアプローチが取られます。
不安症の主な種類
不安症にはいくつかのタイプがあり、それぞれ不安を感じやすい状況や症状の現れ方が異なります。代表的な不安症の種類は以下の通りです。
全般性不安障害
特定の対象や状況に限らず、仕事、健康、お金、家族のことなど、様々なことに対して持続的に過剰な心配や不安を感じるのが特徴です。「もし~になったらどうしよう」と常に最悪の事態を想像してしまいます。心配が頭から離れず、リラックスすることが難しい状態が長く続きます。イギリス王立精神科医協会の情報ページ『不安障害と全般性不安障害 (GAD)』[^1]によると、これは仕事への責任やお金、健康、家庭など、さまざまな出来事または活動に対する過剰な不安と心配が持続する状態であり、身体症状として動悸、発汗、不眠などを伴うと説明されています。
症状としては、心配だけでなく、落ち着きのなさ、イライラ、集中困難、筋肉の緊張、疲労感、睡眠障害(寝つきが悪い、眠りが浅い)などを伴うことが多くあります。この過剰な心配や症状が、少なくとも6ヶ月以上続いており、日常生活や社会生活に大きな支障をきたしている場合に診断されます。
パニック障害
予期しないパニック発作を突然繰り返すのが特徴です。パニック発作中は、激しい動悸、息苦しさ、めまい、発汗、体の震え、吐き気、胸の痛み、手足のしびれなどを感じ、「このまま死んでしまうのではないか」「気が変になってしまうのではないか」という強い恐怖や不安に襲われます。パニック発作自体は通常数分から長くても30分以内に収まりますが、その後の「また発作が起きるのではないか」という予期不安が強く、発作が起きた場所(電車の中、人混みなど)や状況を避けるようになる(広場恐怖)こともあります。これにより、外出や社会生活に大きな制限がかかることがあります。
社交不安障害(SAD)
人前での発表や会話、初対面の人との交流、食事など、他人の注目を浴びる社会的状況に対して、強い不安や恐怖を感じるのが社交不安障害(SAD)の特徴です。米国国立精神衛生研究所(NIMH)は、これを「他者に見られ、評価されることに対する強烈で持続的な恐怖」と説明しており、仕事や学校、その他の日常活動に影響を及ぼす可能性があると指摘しています[^2]。「人前で恥をかいてしまうのではないか」「他人に変に思われるのではないか」といった強い恐れから、そのような状況を避けようとします。不安を感じると、顔が赤くなる、汗をかく、声や手足が震える、どもるといった身体症状が現れることもあります。日本神経精神薬理学会雑誌の学術情報[^3]でも、対人交流場面で強い不安感を感じることがこの障害の重要な要素であると述べられています。不安や恐怖が強すぎるため、避けてばかりいると、仕事や学校、友人関係などに大きな支障が出てしまいます。以前は「あがり症」や「対人恐怖症」と呼ばれることもありましたが、これは治療可能な病気です。
強迫性障害
自分の意思に反して、不快な考え(強迫観念)が繰り返し頭に浮かび、その考えによって生じる不安を打ち消そうとして、特定の行動(強迫行為)を繰り返さずにはいられなくなるのが特徴です。例えば、「手が汚れているのではないか」という強迫観念から、「何度も手を洗う」という強迫行為を繰り返す(洗浄強迫)、鍵を閉めたか不安になり「何度も確認に戻る」という強迫行為を繰り返す(確認強迫)などがあります。強迫行為は一時的に不安を和らげますが、すぐに強迫観念が再燃し、行為を繰り返すことをやめられなくなります。これらの観念や行為に多くの時間を費やしたり、日常生活に大きな支障をきたしたりします。
特定の恐怖症
特定の対象(動物、昆虫、高所、閉所など)や状況(注射、飛行機など)に対して、極端で持続的な恐怖を感じるのが特徴です。その対象や状況に直面すると、パニック発作に近い強い不安症状が現れることがあります。恐怖を感じる対象や状況を避けるようになり、それによって日常生活に支障が生じる場合に診断されます。多くの人は、特定の対象や状況を恐れることが非合理的であると理解していますが、恐怖心を抑えることができません。
これらの不安症は単独で発症することもあれば、複数種類を併発したり、うつ病などの他の精神疾患を併発したりすることもあります。
不安症の主な症状
不安症の症状は、精神的なものと身体的なものがあり、その現れ方は人によって、また不安症の種類によって様々です。
精神的な症状
- 過剰な心配や思考: 特定の対象や状況、あるいは様々なことについて、現実以上に悪い結果を想像し、繰り返し心配する。考えがまとまらず、堂々巡りになる。
- 落ち着きのなさ・そわそわ: 体や心が落ち着かず、じっとしていられない。常に何かを気にしてしまう。
- イライラ: ちょっとしたことでもすぐに感情的になり、怒りっぽくなる。
- 集中力・注意力の低下: 不安な考えが頭を占めてしまい、目の前のことに集中できない。物忘れが増える。
- 恐怖: 特定の対象や状況、あるいは将来に対して、強い恐れを感じる。
- 回避: 不安や恐怖を感じる状況や対象を避けようとする。
身体的な症状
不安やストレスが自律神経に影響を与え、様々な身体症状を引き起こします。
- 動悸・息苦しさ: 心臓がドキドキする、脈が速くなる。息が吸えない、窒息しそうに感じる。
- 発汗: 手のひらや全身に汗をかく。
- 体の震え: 手足や声が震える。
- めまい・ふらつき: 立ちくらみや平衡感覚の異常を感じる。
- 吐き気・腹痛・下痢: 胃腸の調子が悪くなる。
- 頭痛・肩こり: 筋肉の緊張からくる痛みやこり。
- 疲労感: 体がだるく、疲れが取れない。
- 睡眠障害: 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、熟睡感がない。
- 胸の痛み・圧迫感: 心臓に問題があるかのような感覚。
- 手足のしびれ・冷え: 血行が悪くなったような感覚。
これらの症状は、不安を感じる状況で強くなる傾向があります。中には、身体症状が先に現れ、「何か重い病気なのではないか」と病院を巡る人もいます。しかし、検査をしても異常が見つからず、最終的に不安症と診断されることも少なくありません。
不安障害とうつ病の違い
不安障害とうつ病は、どちらも心の不調として現れることが多く、症状も似ているため混同されがちですが、異なる病気です。また、不安障害とうつ病は同時に発症する(併発する)ことも非常に多く、片方を治療することでもう片方も改善されることもあります。
主な違いを以下の表にまとめました。
項目 | 不安障害(不安症) | うつ病 |
---|---|---|
中心となる感情 | 不安、心配、恐怖が強い | 気分の落ち込み、悲しみ、無気力感が強い |
将来への考え | 最悪の事態を過剰に心配する(〇〇になったらどうしよう) | 将来への希望が見出せない、絶望的な考え(どうせうまくいかない、生きていても仕方ない) |
意欲・活動性 | 不安を避けるために活動を制限することはあるが、興味や意欲自体は比較的保たれていることが多い(種類による) | 興味や関心が失われ、何事にも意欲が湧かない(アパシー)。好きなことに対しても楽しめなくなる。 |
身体症状 | 動悸、息苦しさ、発汗、震え、めまい、胃腸症状など、自律神経系の症状が目立つことが多い。 | 食欲不振または過食、体重減少または増加、睡眠障害(不眠または過眠)、倦怠感、体の痛みなど、全身的な不調が多い。 |
症状の波 | 不安を感じる状況や刺激によって症状が変動しやすい。 | 一日の中で症状の波がある(午前中にひどいなど)。状況に関わらず持続的に症状が続くことが多い。 |
治療のポイント | 不安や恐怖への対処法を学ぶこと、不安を避ける行動を減らすことが重要。 | 気分の回復、エネルギーの回復、思考パターンの修正などが重要。 |
治療法 | 薬物療法(抗不安薬、SSRIなど)、精神療法(認知行動療法、暴露療法など)。 | 薬物療法(抗うつ薬)、精神療法(認知行動療法、対人関係療法など)。 |
不安障害の人は、不安を避けようと努力するため、常に緊張状態にあり、疲れ果ててうつ病を併発することがあります。逆に、うつ病の人が、将来への不安から不安障害のような症状を呈することもあります。ご自身の症状がどちらに近いのか、あるいは両方当てはまるのかは、専門家である医師の診断が必要です。自己判断せずに、まずは医療機関に相談することが大切です。
不安症の主な治療法
不安症の治療には、主に「病院での治療」と「自分でできる対処法・改善法」があります。適切な治療を受けることで、多くの人が症状を改善し、より穏やかな日常生活を取り戻すことが可能です。
病院での治療法
医療機関(精神科や心療内科)では、医師や心理士といった専門家が、患者さんの症状や状態に合わせて様々な治療法を組み合わせながら進めていきます。主な治療法は、薬物療法と精神療法(カウンセリング)です。
薬物療法
薬物療法は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、不安やそれに伴う身体症状を和らげることを目的とします。不安症の種類や重症度によって、様々な種類の薬が使い分けられます。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬): 不安症治療において最も広く使われる薬です。脳内のセロトニン量を増やすことで、不安や落ち込みを和らげます。効果が現れるまでに数週間かかることがありますが、継続して服用することで効果が安定します。依存性が少なく、比較的安全性の高い薬とされています。全般性不安障害、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害など、多くの不安症に有効です。
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): セロトニンだけでなく、ノルアドレナリンの量も増やす薬です。SSRIと同様に広く使われ、不安や気分の落ち込みに効果があります。
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬: 不安や緊張を比較的早く和らげる効果がありますが、依存性や眠気、ふらつきなどの副作用が出やすいという特徴があります。そのため、症状が特に強い時期に短期間だけ使用したり、頓服薬として使われたりすることが多いです。医師の指示に従って正しく使用することが非常に重要です。
- その他の薬: 必要に応じて、βブロッカー(身体症状の緩和)、三環系抗うつ薬、非ベンゾジアゼピン系抗不安薬などが用いられることもあります。
薬物療法は、不安そのものを直接なくすというよりは、不安によって生じる症状を軽減し、精神療法やセルフケアに取り組む余裕を作るための補助的な役割を果たすことが多いです。薬の種類や量は、患者さんの症状、体質、他の病気の有無などを考慮して医師が慎重に決定します。自己判断で服用量を変更したり、服薬を中断したりすることは危険ですので、必ず医師の指示に従ってください。
精神療法(カウンセリング)
精神療法は、心理的なアプローチを通して、不安を生み出す考え方や行動パターンを修正し、不安との付き合い方や対処法を身につけることを目的とします。薬物療法と並行して行われることが多く、不安症の種類によって効果的な療法が異なります。
認知行動療法
不安症の精神療法として、最も科学的な根拠が豊富で、効果が高いとされているのが認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)です。不安を感じる時に、どのような考え(認知)が浮かび、それに対してどのような行動をとるかを分析し、非合理的な考え方を修正したり、より適応的な行動を身につけたりすることを目指します。
認知行動療法の基本的な考え方は、「出来事そのものが直接的に感情や行動を決めるのではなく、出来事をどのように捉えるか(認知)が感情や行動に影響を与える」というものです。
- 例: 社交不安障害の場合
- 出来事: 人前で話す機会がある
- 非合理的な認知: 「失敗したらどうしよう」「きっと笑われる」「顔が赤くなるのがばれたら恥ずかしい」
- 感情: 強い不安、恐怖
- 行動: 人前で話す機会を避ける、話す時にうつむいてしまう
認知行動療法では、まず自分がどのような時に不安を感じ、その時どんな考えが浮かび、どんな行動をとるかを客観的に記録・分析します(自己観察・思考記録)。次に、その考え方が現実的かどうか、別の見方はできないかを検討します(認知再構成)。例えば、「失敗したらどうしよう」という考えに対して、「失敗しても命まで取られるわけではない」「完璧に話せる人なんていない」といった現実的な考え方を取り入れます。
また、不安を感じる状況に少しずつ慣れていく練習も行います(曝露療法)。避けていた状況に段階的に、安全な環境で直面することで、「恐れていたほどひどいことにはならなかった」「不安を感じても大丈夫だった」という成功体験を積み重ね、不安を克服していくことを目指します。
認知行動療法は通常、週1回程度の頻度で数ヶ月間、心理士などの専門家と協力しながら進めます。宿題として、日常生活での記録や実践が求められることもあります。地道な作業ですが、不安を生み出すメカニズムを理解し、具体的な対処スキルを身につけることができるため、薬物療法と組み合わせることで高い治療効果が期待できます。特に、全般性不安障害、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害などに有効性が確認されています。
その他の精神療法
不安症のタイプや患者さんの状態によっては、認知行動療法以外の精神療法が用いられることもあります。
- 対人関係療法: 人間関係の悩みや変化が不安や気分の落ち込みに関連している場合に有効な療法です。人間関係の問題に焦点を当て、コミュニケーションスキルを改善したり、対人関係の変化に適応したりすることを目指します。
- 森田療法: 日本で開発された精神療法で、「あるがまま」の考え方を重視します。不安をなくそうとするのではなく、不安を抱えながらも「なすべきこと」を実行していくことを通して、症状からの解放を目指します。特に強迫性障害や不安が強い神経症的な傾向に有効とされています。
どの精神療法が適しているかは、医師や心理士との相談の上で決定されます。
自分でできる不安の治し方・対処法
病院での治療と並行して、あるいは軽症の場合には、日常生活でのセルフケアや工夫によって不安を和らげ、対処する力を高めることができます。
日常生活で不安な心を落ち着かせる方法
日頃から不安を感じやすい傾向がある方は、リラクゼーションやストレス軽減の方法を取り入れることで、心の安定を図ることができます。
- 腹式呼吸: ゆっくりと鼻から息を吸い込み、お腹を膨らませます。そして口から、吸うときの倍くらいの時間をかけてゆっくりと息を吐き出します。腹式呼吸は副交感神経を優位にし、心拍数を落ち着かせ、リラックス効果をもたらします。不安を感じた時にすぐにできる簡単な方法です。
- 筋弛緩法: 体の各部分の筋肉に意識的に力を入れ、数秒キープしてから一気に力を抜くという動作を繰り返します。顔、肩、腕、お腹、足など、体の様々な部位で行います。体の緊張を緩めることで、心の緊張も和らげることができます。
- マインドフルネス: 「今、ここ」の瞬間に意識を向け、自分の体や心で起こっていることを、良い悪いと判断せずにありのままに観察する練習です。呼吸、体の感覚、聞こえてくる音などに注意を向けます。不安な考えに囚われそうになった時に、意識を「今」に戻す訓練になります。瞑想アプリなどを活用するのも良いでしょう。
- ジャーナリング(書くこと): 不安に感じていること、考えていること、感情などを自由に紙に書き出してみましょう。頭の中で堂々巡りしていた不安な考えが整理されたり、客観的に見られるようになったりすることで、気持ちが楽になることがあります。
- 趣味や好きなことに没頭する: 音楽を聴く、映画を観る、絵を描く、手芸をする、ゲームをするなど、自分が楽しめる活動に時間を費やすことは、不安から一時的に離れ、リフレッシュするのに役立ちます。
- 休息をしっかりとる: 疲れは不安を増幅させます。十分な睡眠時間を確保し、日中も適度に休憩を挟むようにしましょう。
- 自然に触れる: 公園を散歩する、森林浴をするなど、自然の中で過ごす時間は心を落ち着かせ、リラックス効果があると言われています。
- アロマセラピーや温かい飲み物: ラベンダーやカモミールなどのアロマを使ったり、温かいハーブティーなどを飲んだりすることも、リラックス効果をもたらすことがあります。
急な不安感が襲ってきた時の対処法
パニック発作のように、急に強い不安や恐怖に襲われた時、その場を乗り切るための具体的な対処法を知っておくことは非常に重要です。
- 呼吸を整える: 慌てずに、まずはゆっくりと呼吸をすることに集中しましょう。先述の腹式呼吸が有効です。可能であれば、4秒かけて鼻から吸い、8秒かけて口から吐く、といったように、呼吸をコントロールすることを意識します。「大丈夫、大丈夫」などと心の中で唱えながら行うのも良いでしょう。過呼吸になりそうになったら、ビニール袋を使うのではなく、口をすぼめてゆっくりと息を吐き出すなど、呼吸をゆっくりにする方法を試してください。
- グラウンディング: 「今、ここにいる」という感覚を取り戻すための技法です。
- 自分の体を感じる:足の裏が床についている感覚、座っている椅子がお尻に触れている感覚などに意識を向けます。
- 周りの五感に意識を向ける:「今、見えているものを5つ」「聞こえている音を4つ」「体に触れているものを3つ」「嗅げる匂いを2つ」「味わえる味を1つ」といったように、五感で感じられるものをリストアップしてみます。
- 手で何かを触る:近くにあるもの(机、壁、自分の服など)を触ってみて、その質感や温度を感じることに集中します。
これらの方法で、不安な考えから注意をそらし、現実世界に意識を戻すことができます。
- 安全な場所へ移動する: 可能であれば、人混みから離れて静かな場所へ移動したり、座ったり寝転がったりして体を楽な姿勢にしたりしましょう。
- 誰かに助けを求める: 一緒にいる人に「息が苦しい」「少し休みたい」などと伝える、信頼できる人に電話するなど、誰かに状況を伝えるだけでも安心できることがあります。
- 「これは不安発作だ、しばらくすれば治まる」と自分に言い聞かせる: パニック発作は死に至るものではなく、数分から長くても30分程度で収まることを知っておくことが大切です。発作中に「大変なことだ」と考えすぎず、「一時的なものだ」と冷静になるように努めます。
これらの対処法を事前に知っておき、不安が軽い時に練習しておくことで、実際に強い不安に襲われた時に実践しやすくなります。
生活習慣の改善(食事・睡眠・運動)
心と体は密接に関係しています。健康的な生活習慣は、不安を感じにくい体と心を作る基盤となります。
- 食事:
- バランスの取れた食事: 炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取しましょう。特に、脳の健康に関わるオメガ3脂肪酸(魚などに含まれる)や、セロトニンの生成に必要なトリプトファン(肉、魚、大豆製品、乳製品などに含まれる)を含む食品を積極的に摂るのがおすすめです。
- 血糖値の急激な変動を避ける: 砂糖を多く含む清涼飲料水や菓子類は、血糖値を急激に上下させ、気分の不安定さや不安感につながることがあります。できるだけ控えましょう。
- カフェインとアルコール: カフェインは交感神経を刺激し、動悸や不安感を高めることがあります。アルコールは一時的に不安を紛らわせるように感じることがありますが、分解される過程で不安を強めたり、睡眠の質を低下させたりします。どちらも摂りすぎには注意が必要です。
- 睡眠: 不安症の多くの人が睡眠障害を抱えています。睡眠不足は不安感を強め、悪循環に陥りがちです。
- 規則正しい睡眠時間: 毎日同じ時間に寝て起きるように心がけましょう。週末も平日との差を少なくするのが理想です。
- 寝る前のリラックス: 寝る前にカフェインやアルコールを避け、ぬるめのお風呂に入る、軽い読書をする、リラックスできる音楽を聴くなど、心身を落ち着かせる習慣を取り入れましょう。
- 寝室環境の整備: 寝室は暗く、静かで、快適な温度に保ちましょう。寝る前にスマートフォンやパソコンの使用は控えめに。
- 運動: 適度な運動は、ストレスホルモンを減らし、気分を高揚させる脳内物質(エンドルフィンなど)の分泌を促します。また、体の緊張を和らげ、睡眠の質を改善する効果も期待できます。
- ウォーキングやジョギング: 毎日20分程度のウォーキングや軽いジョギングなど、有酸素運動は特に効果的です。
- ヨガやストレッチ: 体の柔軟性を高め、リラクゼーション効果も期待できます。
- 無理なく継続: 激しい運動よりも、自分が楽しめて無理なく続けられる運動を見つけることが大切です。
これらの生活習慣の改善は、すぐに劇的な効果が現れるわけではありませんが、継続することで体質や心の状態を根本的に改善し、不安に強い自分を作る助けとなります。
不安症は本当に治る?治ったきっかけや期間
「この不安は一生続くのだろうか…」と悩んでいる方もいるかもしれません。しかし、不安症は適切な治療と対処によって、症状を大幅に改善させたり、完治したりすることが十分に可能な病気です。治療を継続することで、不安に振り回されることなく、自分らしい生活を送れるようになる人がたくさんいます。
不安症の治療期間と予後
不安症の治療にかかる期間は、不安症の種類、重症度、個人の状態、治療法への反応などによって大きく異なります。
- 治療開始から効果を実感するまで: 薬物療法の場合、効果が出始めるまでに数週間かかるのが一般的です。精神療法も、効果を実感できるようになるまでにはある程度の回数と期間が必要です。
- 症状が安定するまで: 多くの不安症では、症状が安定し、日常生活への支障が少なくなるまでに、数ヶ月から1年程度かかることが多いです。
- 再発予防と維持期: 症状が改善した後も、すぐに治療を終了するのではなく、再発を防ぐために薬の量を減らしながら継続したり、精神療法で身につけたスキルを維持・発展させたりする期間(維持期)が必要です。この期間を含めると、治療期間はさらに長くなることもあります。
必ずしも「完治」という言葉を使わずに、「症状が気にならなくなり、不安とうまく付き合いながら生活できるようになった」という状態を目指すこともあります。たとえ症状が再燃したとしても、以前の経験や身につけた対処法を活用したり、早めに医療機関に相談したりすることで、回復を早めることができます。予後は比較的良好な疾患とされており、多くの人が適切な治療によって回復を遂げます。
実際に不安症が治った人のきっかけ
不安症を克服した人たちの経験談からは、様々な「治ったきっかけ」が見られます。もちろん個人差はありますが、以下のような要素が回復につながることが多いようです。(これらはフィクションの事例を含みます。)
- 信頼できる医師や心理士との出会い: 「自分の話をじっくり聞いてくれて、病気について丁寧に説明してくれた医師に出会えたことで、一人ではないと思えた」「カウンセリングで話すうちに、自分の考え方の癖に気づけた」など、専門家との信頼関係が治療の大きな支えになったという声が多く聞かれます。
- 認知行動療法の効果: 「頭の中のネガティブな考え方に気づき、別の見方ができるようになる練習を重ねるうちに、不安に囚われる時間が減った」「避けていた状況に少しずつ挑戦してみたら、意外と大丈夫だったという成功体験を積み重ねられた」など、具体的なスキルを身につけたことが自信につながったという人もいます。
- 薬物療法の効果: 「薬を飲み始めてしばらくしたら、パニック発作の頻度が減り、外出できるようになって希望が持てた」「常に感じていた体の緊張が和らぎ、心に余裕が生まれた」など、薬で症状が軽減したことで、他の治療やセルフケアに取り組む意欲が湧いたというケースもあります。
- 生活習慣の改善: 「運動を始めたら、体が軽くなっただけでなく、気持ちも前向きになった」「毎日同じ時間に寝るようにしたら、日中のだるさがなくなり、不安も少し和らいだ」など、地道な生活習慣の改善が心身の安定につながったという声もあります。
- 病気や自分自身を受け入れる: 「不安を感じやすい自分を否定するのではなく、『こういう性質なんだ』と受け入れられるようになったら、かえって楽になった」「完璧でなくても良いと思えるようになった」など、自分自身や病気の状態を受け入れたことが回復の転機になったという人もいます。
- 周囲の理解とサポート: 家族や友人、職場の同僚などに病気について話したことで、理解やサポートが得られ、「孤立感が和らいだ」「安心して治療に専念できた」という経験も回復を後押しします。
- 小さな成功体験の積み重ね: 「今日は少しだけ外出できた」「不安を感じたけど、対処法を試してみたら落ち着いた」など、たとえ小さなことでも、自分で不安に対処できたという経験を積み重ねることで、自信を取り戻し、回復への道を歩むことができます。
回復への道のりは一人ひとり異なりますが、諦めずに治療を続け、自分に合った対処法を見つけ、小さな一歩を積み重ねていくことが、不安症を克服するための重要な鍵となります。
医療機関(精神科・心療内科)の選び方
不安症かな、と思ったら、まずは専門の医療機関に相談することをおすすめします。「精神科」と「心療内科」はどちらも心の不調を扱う科ですが、心療内科は主に心身症(ストレスが原因で体に症状が出る病気)を、精神科は心の病気を専門とする傾向があります。不安症はどちらでも診てもらえますが、精神科の方がより専門性が高い場合が多いでしょう。
どのような時に受診すべきか
以下のような状態が続いている場合は、一人で悩まずに医療機関への受診を検討しましょう。
- 不安や心配が自分でコントロールできないほど強い: 常に不安を感じており、考えようと思っても止められない。
- 不安によって日常生活に支障が出ている: 学校や仕事に行けない、人に会うのが怖い、電車に乗れない、買い物ができないなど、普段できていたことができなくなった。
- 身体症状が辛い: 動悸、息苦しさ、めまい、腹痛などが頻繁に起こり、身体的な病気ではないかと心配になる(内科などで異常がないと言われた場合も含む)。
- 睡眠が十分にとれない、食欲がないなど、心身の不調が続いている: 体力が落ちて、さらに不安を感じやすくなっている。
- 「このままではいけない」と感じている: 自分ではどうにもできないと感じ、専門家の助けが必要だと感じている。
- うつ病など他の精神疾患を併発している可能性がある: 気分の落ち込みが激しい、何もする気が起きない、死にたい気持ちになるなどの症状がある。
不安症は早期に適切な治療を開始することで、回復が早まる可能性が高まります。「このくらいのことで病院に行っていいのだろうか」と迷う必要はありません。専門家に相談するだけで、心が軽くなることもあります。
信頼できる病院の見つけ方
自分に合った、信頼できる医療機関を見つけることは、不安症治療の重要な一歩です。以下の点を参考に、いくつかの病院を検討してみましょう。
- 専門性: 不安症やその他の精神疾患の診療経験が豊富な医師がいるかを確認しましょう。ホームページなどで医師の経歴や専門分野を調べたり、クチコミや評判を参考にしたりするのも良いでしょう。
- 治療方針の説明: 医師が患者さんの話をしっかり聞き、診断結果や病気について丁寧に説明してくれるか、どのような治療法があるか、それぞれのメリット・デメリット、治療の期間などについて分かりやすく説明してくれるかが重要です。患者さんの疑問や不安に誠実に対応してくれるかも大切なポイントです。
- 精神療法(カウンセリング)の実施状況: 薬物療法だけでなく、認知行動療法などの精神療法を受けることができるかどうかも確認しましょう。医師だけでなく、臨床心理士などの心理専門職がいるかも確認すると良いでしょう。
- 医師との相性: 医師との信頼関係は治療効果に大きく影響します。話しやすいか、安心して相談できるかなど、医師との相性も重要です。いくつかの病院を訪れて、比較検討してみるのも良いかもしれません。
- 通いやすさ: 治療は継続することが大切です。自宅や職場から通いやすい場所にあるか、予約は取りやすいか、診療時間は自分の都合に合うかなども考慮しましょう。
- プライバシーへの配慮: 待合室の構造や、診察室での声漏れ対策など、プライバシーに配慮しているかどうかも気になる点です。
- 費用: 精神科や心療内科での治療は、原則として保険適用されますが、カウンセリングなど保険適用外の自費診療となる場合もあります。事前に費用について確認しておくと安心です。
これらの点を踏まえ、複数の候補から自分に最も合った病院を選ぶようにしましょう。もし、最初に受診した病院が合わないと感じたら、他の病院を探すことも決して悪いことではありません。「ここでなら安心して治療を受けられそう」と思える場所を見つけることが、回復への第一歩となります。
オンライン診療も選択肢の一つです。特に、外出するのが辛い、近くに良い医療機関がない、仕事で忙しいといった方にとっては、自宅などから気軽に診察を受けられるオンライン診療が有効な場合があります。オンライン診療を行っている医療機関の選び方も、上記のポイントを参考にすると良いでしょう。
まとめ|不安症の治し方を見つける第一歩
不安症は、誰にでも起こりうる病気であり、決して特別なことではありません。そして、適切な治療とご自身の努力によって、必ず改善が見込める病気です。
この記事では、不安症の原因や様々な種類、そして病院での専門的な治療法から、日常生活で実践できるセルフケアや対処法まで、不安症の治し方について幅広くご紹介しました。
不安症を克服するための最も重要な一歩は、「一人で抱え込まず、専門家の助けを借りること」です。勇気を出して医療機関を受診し、ご自身の状態に合った治療法について相談してみましょう。薬物療法で辛い症状を和らげながら、認知行動療法などの精神療法で不安との付き合い方を学び、さらに生活習慣の改善やセルフケアを日々の生活に取り入れていくことが、回復への確実な道となります。
不安な気持ちと向き合うことは、時に辛く感じるかもしれません。しかし、あなたは一人ではありません。医師や心理士、そして周囲のサポートを得ながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
この記事が、あなたが不安を乗り越え、より穏やかで自分らしい毎日を送るための、最初の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
免責事項:
本記事は不安症に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を保証するものではありません。ご自身の症状については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。
[^1]: イギリス王立精神科医協会 『不安障害と全般性不安障害 (GAD)』 https://www.rcpsych.ac.uk/mental-health/translations/japanese/anxiety-and-generalised-anxiety-disorder-(GAD)
[^2]: National Institute of Mental Health (NIMH) 『Social Anxiety Disorder: More Than Just Shyness』 https://www.nimh.nih.gov/health/publications/social-anxiety-disorder-more-than-just-shyness
[^3]: 日本神経精神薬理学会雑誌 『社交不安障害の診断と治療』 https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1170060413.pdf