気分の波が激しく、日常生活に支障を感じている方の中には、「もしかしたら双極性障害かも?」と不安に思っている方もいるかもしれません。双極性障害は、気分が高揚する「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す病気です。
これらの気分の波は、一時的な感情の変動とは異なり、ご本人の生活や周囲の人との関係に大きな影響を与えることがあります。双極性障害は早期に適切な診断と治療を受けることが非常に重要ですが、ご自身で判断するのは難しい病気でもあります。この記事では、双極性障害の基本的な特徴、簡易的なセルフチェックリスト、うつ病との違い、そして正確な診断のために医療機関を受診することの重要性について詳しく解説します。ご自身の状態を把握するための一助として、ぜひ最後までお読みください。
ただし、この記事のセルフチェックはあくまで目安であり、正式な診断は必ず専門の医師にご相談ください。

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双極性障害セルフチェックリスト(簡易診断テスト)
ここでは、ご自身の気分の波に双極性障害の可能性があるかどうかを簡易的にチェックするためのリストをご紹介します。過去の一定期間(例えば、過去数ヶ月または1年など、ご自身の気になる期間を設定してください)を振り返って、以下の項目に当てはまるかどうか考えてみましょう。これはあくまで簡易的なチェックであり、医学的な診断を行うものではありません。気になる点が多い場合は、専門の医療機関に相談することをおすすめします。
躁状態・軽躁状態の症状チェック項目
以下の項目について、「気分が高ぶったり、活動的になったりした時期に、通常とは違うレベルで経験したことがあるか」という観点でチェックしてみてください。
- 気分が高揚し、自信に満ち溢れているように感じた
- 異常に気分が良く、ハイテンションだった
- 自分は何でもできると感じた
- イライラしやすかった、怒りっぽかった
- 些細なことでカッとなったり、攻撃的になったりした
- 普段なら気にならないことにひどく腹が立った
- いつもより活動的になり、エネルギーに満ちているように感じた
- じっとしていられず、動き回っていた
- 疲れを感じにくかった
- 普段よりよくしゃべった、早口になった
- 次々と話が浮かび、話すのを止められなかった
- 話があちこちに飛んだ
- 思考が速くなり、次々とアイデアが浮かんだ
- 頭の中で色々な考えが駆け巡っていた
- 同時に複数のことを考えられた
- 注意散漫になり、集中するのが難しかった
- 一つのことに長く集中できず、気が散りやすかった
- すぐに別のことに興味が移った
- 睡眠時間が短くても平気だった、ほとんど眠らなくても疲労を感じなかった
- 睡眠時間が極端に短くなった(例:3時間以下)
- それほど疲れていないと感じた
- 目的のない行動や衝動的な行動が増えた
- 必要以上に動き回ったり、新しいことを始めたりした
- 危険なことや無謀なことにも挑戦しようとした
- 楽しい活動(買い物、仕事、性的活動など)に過度にのめり込んだ
- 衝動買いや浪費をしてしまった
- 後先考えずに様々なことに手を出した
- 自分は特別な能力や才能があると感じた、現実離れした考えを抱いた
- 自分の能力を過大評価した
- 壮大な計画を立てたり、非現実的な目標を持ったりした
うつ状態の症状チェック項目
以下の項目について、「気分がひどく落ち込んだり、意欲が低下したりした時期に、通常とは違うレベルで経験したことがあるか」という観点でチェックしてみてください。
- 気分がひどく落ち込み、憂鬱な状態が続いた
- ほとんど毎日、一日中気分が沈んでいた
- 何事にも希望が持てなかった
- 普段楽しめていたことに関心や喜びを感じなくなった
- 趣味や好きなことへの興味が失われた
- 人との交流を避けたいと感じた
- 疲れやすく、エネルギーが低下したように感じた
- 少し動いただけでもひどく疲れた
- 一日中だるさを感じた
- 食欲が変化し、体重が増減した
- 食欲が極端になくなった、または異常に増えた
- 意図せず体重が大きく変わった
- 睡眠に問題があった(眠れない、寝すぎるなど)
- 夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう
- 一日中眠気が強く、寝てばかりいた
- 話し方や体の動きが遅くなった、または落ち着きがなくなりイライラした
- 何を話すのも億劫で、動きが鈍くなった
- ソワソワしてじっとしていられなかった
- 集中力や思考力が低下し、物事を決められなくなった
- 仕事や勉強に集中できなかった
- 簡単な判断も難しく感じた
- 自分を責める気持ちが強くなった、無価値だと感じた
- 過去の失敗をひどく後悔した
- 自分には価値がないと感じた
- 死について考えた、自殺を考えたり計画したりした
- 生きていても仕方ないと思った
- 具体的に死ぬ方法を考えた
セルフチェック結果の見方
上記のチェックリストで、躁状態・軽躁状態の項目にも、うつ状態の項目にも複数当てはまる時期があった場合は、双極性障害の可能性も考えられます。
特に、躁状態・軽躁状態のチェック項目に複数当てはまる経験があり、それがうつ状態の経験と繰り返している場合は、注意が必要です。
セルフチェックはあくまで自己診断のきっかけとするためのものです。チェックリストに当てはまる項目が多かったとしても、それだけで「双極性障害である」と断定することはできません。また、チェック項目に当てはまらない場合でも、気分の波に悩んでいる場合は、他の要因や疾患の可能性も考えられます。
最も重要なのは、ご自身の状態について不安を感じたら、必ず専門の医療機関(精神科、心療内科など)を受診し、医師の診察を受けることです。セルフチェックの結果を持参して相談することも有効です。
双極性障害の診断基準とは?(DSM-5準拠)
精神疾患の診断には、国際的に広く使用されている診断基準が用いられます。日本では、主にアメリカ精神医学会が作成した「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」や、世界保健機関(WHO)による「国際疾病分類 第10版(ICD-10)」が参考にされます。ここでは、DSM-5に基づいた双極性障害の主要な診断基準の概要を分かりやすく説明します。
双極性障害は、主に双極I型障害と双極II型障害に分けられます。この分類は、経験する気分のエピソードの種類に基づいています。
- 双極I型障害: 少なくとも1回以上の躁病エピソードを経験したことがある場合に診断されます。多くの場合、うつ病エピソードも経験します。
- 双極II型障害: 少なくとも1回以上の軽躁病エピソードと、少なくとも1回以上のうつ病エピソードを経験したことがある場合に診断されます。躁病エピソードはありません。
診断には、これらのエピソードが特定の期間続き、いくつかの特徴的な症状が見られることが必要です。
躁病エピソードの診断基準
躁病エピソードの診断には、以下の主要な基準を満たす必要があります。
- 気分が異常かつ持続的に高揚している、開放的である、または易怒的である期間が、少なくとも1週間以上続き、ほとんど毎日、一日中その状態であること。
- 上記の気分の異常な期間中、以下の症状のうち3つ(または気分が易怒的な場合4つ)以上が認められ、それが著明であること(うつ状態と対照的であること)。
- 誇大(自分は偉大な人物である、特別な力があるといった根拠のない自信や考え)または自己評価の肥大。
- 睡眠欲求の減少(例:3時間しか眠らなくても休息十分と感じる)。
- 普段より多弁である、または話し続けようとする切迫感がある。
- 観念奔逸(思考が次々と移り変わる)または思考が暴走しているという主観的な体験。
- 注意散漫(関係のない、重要でない刺激にすぐ気が散る)。
- 目的指向性活動(仕事、学業、性的活動など)が増加する、または精神運動焦燥(目的のない動き回る、落ち着きのなさ)。
- 快楽的活動に熱中するが、その行動の潜在的な有害性を認識しない(例:衝動買い、性的無分別、ばかげた投資など)。
- 気分の障害が、社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こしている、または入院が必要なほど重篤である、または精神病性の特徴(妄想や幻覚など)を伴うこと。
- エピソードが、物質(例:薬物乱用、医薬品)の生理学的作用や、他の病気(例:甲状腺機能亢進症)によるものではないこと。
軽躁病エピソードの診断基準
軽躁病エピソードの診断には、以下の主要な基準を満たす必要があります。
- 気分が異常かつ持続的に高揚している、開放的である、または易怒的である期間が、少なくとも連続4日間以上続き、ほとんど毎日、一日中その状態であること。(躁病エピソードより短い期間)
- 上記の気分の異常な期間中、以下の症状のうち3つ(または気分が易怒的な場合4つ)以上が認められ、それが著明であること(うつ状態と対照的であること)。(躁病エピソードと同じ項目)
- エピソードが、その人の普段の気分とは明らかに異なり、それを見た他者から異常と認められること。
- エピソードが、社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こしていない、または入院が必要ではないこと。精神病性の特徴は伴わないこと。(躁病エピソードとの大きな違い)
- エピソードが、物質や他の病気によるものではないこと。
- 軽躁病エピソードの後に、うつ病エピソードが続いている、または過去にうつ病エピソードを経験していること。(双極II型障害の診断に必須)
うつ病エピソードの診断基準
双極性障害におけるうつ病エピソードの診断基準は、大うつ病性障害の診断基準と基本的に同じです。
- 以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の期間中に存在し、病気になる前と比べて変化が認められること。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失であること。
- 抑うつ気分(ほとんど毎日、一日中)。
- ほとんど、または全ての活動における興味または喜びの著しい減退。
- 意図的でない体重の減少または増加、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加。
- ほとんど毎日の不眠または過眠。
- ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(落ち着きのなさ、または動きが鈍くなる)。
- ほとんど毎日の疲労感または気力の減退。
- 無価値観、または過剰な、または不適切な罪悪感。
- ほとんど毎日の思考力または集中力の減退、または決断困難。
- 死についての繰り返される考え、自殺を企図、または自殺既遂の具体的な計画がある。
- 症状が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしていること。
- エピソードが、物質や他の病気によるものではないこと。
これらの診断基準は複雑であり、個々の症状がどの程度深刻か、どのくらいの期間続いているかなどを総合的に判断する必要があります。セルフチェックだけで判断せず、必ず専門医の診察を受けてください。
双極性障害とうつ病の違い・見分け方
双極性障害とうつ病は、どちらも「うつ状態」を経験する精神疾患ですが、根本的に異なる病気です。特に、双極性障害がうつ状態の時期に受診した場合、うつ病と誤診されることが少なくありません。正確な診断のためには、両者の違いを理解することが重要です。
気分変動のパターンと持続期間
最も大きな違いは、気分変動のパターンです。
特徴 | 双極性障害 | うつ病 |
---|---|---|
気分の波 | 躁状態(または軽躁状態)とうつ状態を繰り返す | 持続的なうつ状態が主(気分の高揚エピソードはない) |
最も特徴的な状態 | 躁状態または軽躁状態 | うつ状態 |
エネルギー | 躁状態/軽躁状態では異常に高い、うつ状態では著しく低い | うつ状態では著しく低い |
睡眠 | 躁状態/軽躁状態では睡眠時間が短い、うつ状態では不眠または過眠 | うつ状態では不眠または過眠 |
思考速度 | 躁状態/軽躁状態では速い(観念奔逸)、うつ状態では遅い | うつ状態では遅い、集中困難 |
活動性 | 躁状態/軽躁状態では増加(多動)、うつ状態では低下(精神運動制止または焦燥) | うつ状態では低下(精神運動制止または焦燥) |
自己評価 | 躁状態/軽躁状態では誇大、うつ状態では無価値観 | うつ状態では無価値観、罪悪感 |
治療薬 | 気分安定薬、非定型抗精神病薬、抗うつ薬(使用に注意が必要) | 主に抗うつ薬 |
双極性障害の場合、うつ状態だけを経験する期間も長いため、うつ病と間違われやすいのです。しかし、必ず過去に躁状態または軽躁状態のエピソードがあります。この「過去の躁状態・軽躁状態のエピソードの有無」が、双極性障害とうつ病を区別する上で最も重要なポイントとなります。
また、気分のエピソードの持続期間も異なります。躁病エピソードは少なくとも1週間、軽躁病エピソードは少なくとも4日間持続する必要があります。うつ病エピソードは少なくとも2週間持続する必要があります。これらの期間基準を満たしているかも診断の際に考慮されます。
診断が難しいケース
双極性障害の診断が難しいケースはいくつかあります。
- うつ状態での受診: 患者さん自身が躁状態・軽躁状態の自覚がない場合や、その時期を病気と思わずに「調子が良かった」「いつもの自分だ」と考えている場合、医師に適切に伝えられないことがあります。
- 軽躁病エピソードの見落とし: 軽躁病は躁病ほど重篤ではなく、むしろ活動的で生産的になることもあるため、本人も周囲も病気のエピソードとして認識しにくいことがあります。「少し調子のいい時期」として見過ごされがちです。
- 急速交代型: 一年の中で躁・軽躁・うつ・混合状態のエピソードが4回以上繰り返されるタイプです。気分の波が頻繁に変わるため、診断が難しくなることがあります。
- 混合状態: 躁状態とうつ状態の症状が同時に現れたり、非常に短期間のうちに入れ替わったりする状態です。気分が激しく不安定になるため、診断が複雑になります。
- 物質誘発性や他の疾患による気分の変化: 薬物やアルコール、あるいは甲状腺疾患などの身体疾患によって気分の変化が引き起こされている場合、双極性障害と間違われることがあります。
これらの理由から、双極性障害の診断には専門的な知識と、患者さんの過去の病歴や詳細な情報収集が不可欠となります。ご自身で判断せず、必ず専門医の診察を受けるようにしてください。
双極性障害の主な症状詳細
双極性障害の症状は、躁状態・軽躁状態とうつ状態とで大きく異なります。ここでは、それぞれの状態で見られる代表的な症状をより詳しく解説します。双極性障害の躁状態とうつ状態の特徴、診断、治療法については、順天堂大学医学部教授による解説も参考になります。
躁状態・軽躁状態で見られる症状
躁状態や軽躁状態では、気分が高揚するだけでなく、思考や行動、エネルギーレベルに特徴的な変化が現れます。
話し方の変化
躁状態/軽躁状態になると、普段よりも多弁になり、早口になる傾向があります。話すペースが速すぎて、相手がついていけないこともあります。思考の回転が速くなるため、次々と話したいことが湧き出て、話があちこちに飛んだり(観念奔逸)、話すのを止められなくなったりすることもあります。声が大きくなることもあります。気分が易怒的になっている場合は、口調が荒々しくなったり、一方的に捲し立てたりすることもあります。
活動性の増加と睡眠時間
エネルギーが異常に高まり、じっとしていられなくなることがあります。次々と新しいことを始めたり、様々な活動に手を広げたりします。体が疲れているにもかかわらず、その疲労を感じにくく、睡眠時間が極端に短くなっても(例えば、3時間以下でも)休息十分と感じることが多いです。寝る時間をもったいないと感じ、夜通し活動し続けることもあります。
朝の症状(早期覚醒など)
うつ病では朝に気分が落ち込む「早朝覚醒・早朝不調」がよく知られていますが、双極性障害の躁状態/軽躁状態の時期には、早朝に目が覚めても気分が良く、そのまま活動を開始できるといった、うつ病とは逆のパターンが見られることがあります。睡眠時間が短いにもかかわらず、朝からエネルギーに満ちているのが特徴です。
その他、躁状態/軽躁状態では以下のような症状も見られます。
- 誇大性: 根拠のない自信過剰や、自分は特別な人間であるという感覚。
- 注意散漫: 一つのことに集中できず、すぐに気が散ってしまう。
- 衝動性: 後先考えずに危険な行動や無謀な行動に走る(多額の浪費、ギャンブルへの没頭、無計画な旅行、無分別な性的行動など)。
- 易怒性: 些細なことでひどく腹を立てたり、攻撃的になったりする。
- 目的指向性活動の増加: 仕事や学業、社会活動、性的活動などに異常なほど打ち込む。
軽躁病エピソードは躁病エピソードより程度が軽く、日常生活への支障が少ないため、本人も周囲も病気と認識しにくいのが特徴です。しかし、診断のためにはこの軽躁病エピソードの有無を確認することが非常に重要です。
うつ状態で見られる症状
双極性障害のうつ状態は、大うつ病性障害のうつ状態と非常によく似ています。
- 抑うつ気分: ほとんど毎日、一日中気分が沈み込み、憂鬱な状態が続く。絶望感や空虚感を感じる。
- 興味・喜びの喪失: 以前は楽しめていた活動や趣味、人との交流などに対する興味や喜びが失われる。何事も億劫に感じられる。
- 疲労感・気力の減退: 体がだるく、疲れやすい。少しの活動でもひどく疲れる。
- 食欲・体重の変化: 食欲がなくなって体重が減る、あるいは過食になって体重が増える。
- 睡眠障害: 不眠(寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう)または過眠(日中も眠くて寝てばかりいる)。
- 精神運動の変化: 動きが鈍くなり、話し方や反応が遅くなる(精神運動制止)、あるいは落ち着きがなくソワソワする(精神運動焦燥)。
- 思考力・集中力の低下: 物事を考えるのに時間がかかり、集中力が続かない。決断が難しくなる。
- 無価値観・罪悪感: 自分には価値がないと感じ、過去の失敗などをひどく後悔したり、自分を責めたりする。
- 希死念慮: 死にたいと考えるようになる。自殺を考えたり、計画したりする。
双極性障害のうつ状態では、うつ病と比較して過眠や過食、鉛のような体の重だるさ(鉛様麻痺)、拒絶過敏性(他人から否定されることへの過度な敏感さ)といった症状がより多く見られる傾向があるとも言われています。しかし、これらの症状だけで双極性障害と断定できるわけではありません。
躁状態・軽躁状態の症状もうつ状態の症状も、ご自身の普段の状態や過去の状態と比較して、「異常だな」「普段とは違うな」と感じるレベルで見られることが重要です。
双極性障害になりやすい性格や原因
双極性障害は、特定の性格や単一の原因だけで発症する病気ではありません。様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
【主な要因】
- 遺伝的要因: 双極性障害は、遺伝的な影響が大きい病気と考えられています。血縁者に双極性障害の方がいる場合、発症リスクは高まることが研究で示されています。ただし、遺伝する「病気そのもの」ではなく、「病気になりやすい体質」が遺伝すると考えられており、必ずしも遺伝するわけではありません。
- 生物学的要因: 脳内の神経伝達物質(ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなど)のバランスの乱れが関係していると考えられています。これらの物質は、気分や意欲、活動性などを調節する役割を担っています。
- 環境要因: 大きなストレスやライフイベント(親しい人との死別、引っ越し、就職・転職、結婚・離婚など)が、発症のきっかけとなったり、病状を悪化させたりすることがあります。しかし、ストレスがない人でも発症することはあります。
- 心理的要因: 幼少期の体験や、ストレスへの対処の仕方なども影響すると考える専門家もいますが、特定の性格が直接の原因となるわけではありません。
【なりやすい性格と言われる傾向】
「なりやすい性格」というよりは、特定の性格傾向を持つ人が、発症した場合に病状が複雑になったり、診断が遅れたりする可能性が指摘されることがあります。例えば、以下のような傾向です。
- 循環気質: 気分や活動性が周期的に変動しやすい傾向。元々、気分の波が大きめの人。
- 執着気質: 一つのことに凝りやすく、完璧主義で、責任感が強い傾向。真面目で几帳面な人がうつ状態に陥りやすいことは知られていますが、これが双極性障害の発症に直接結びつくわけではありません。
- メランコリー親和型性格: 几帳面、凝り性、責任感が強く、他者との協調性を重んじる性格。これも主にうつ病との関連で語られることが多いですが、双極性障害のうつ状態の背景にあることもあります。
重要なのは、これらの性格傾向があるからといって必ず双極性障害になるわけではないということです。双極性障害は、持って生まれた体質(遺伝的・生物学的要因)に、環境要因などが加わることで発症すると考えられており、患者さんの性格そのものが原因ではありません。
病気に対する理解を深め、適切な治療や対処法を知ることが、病状を安定させる上で非常に重要です。
セルフチェックの限界と医療機関での診断
この記事でご紹介したセルフチェックリストは、あくまでご自身の気分の波に双極性障害の可能性があるかを知るための「きっかけ」に過ぎません。これだけで双極性障害と診断することは絶対にできませんし、危険です。
専門家(医師)による正確な診断プロセス
双極性障害の正確な診断には、精神科医や心療内科医による専門的な診察が不可欠です。医師は、セルフチェックでは把握できない、以下のようないくつかの要素を総合的に評価して診断を行います。
- 詳細な問診: 現在の症状だけでなく、過去の気分の波の様子(高揚した時期や落ち込んだ時期の具体的な症状、期間、頻度、重症度)、症状が出始めた時期、経過、生活への影響などを詳しく聞き取ります。特に、患者さん自身が病気と認識していない躁状態や軽躁状態のエピソードについて、丁寧な聞き取りが行われます。
- 病歴の確認: これまでの病気(身体疾患、精神疾患)、服用している薬、アレルギーなども確認します。
- 家族や周囲からの情報: 患者さん本人は躁状態や軽躁状態の自覚がないことが多いため、可能であれば家族や親しい友人から、普段の様子や気分の波について話を聞かせてもらうことが診断の助けになることがあります。情報提供書などを書いてもらうこともあります。
- 気分尺度の利用: 必要に応じて、気分の状態や症状の程度を客観的に評価するための質問票や尺度(例:MDQ[気分障害質問票]、気分尺度など)を用いることがあります。
- 身体的検査・血液検査: 甲状腺疾患など、気分の変動を引き起こす可能性のある身体疾患を除外するために、身体診察や血液検査を行うことがあります。
- 経過観察: 一度の診察では診断が確定せず、数ヶ月から年単位での経過観察が必要になることもあります。特に、躁病エピソードをまだ経験していないが、軽躁病エピソードとうつ病エピソードを繰り返している双極II型障害の診断には時間がかかることがあります。
これらのプロセスを経て、医師はDSM-5などの診断基準に照らし合わせ、双極性障害であるかどうか、双極I型かII型か、といった正確な診断を下します。
受診を検討すべき目安
セルフチェックで気になる点があった場合だけでなく、以下のようなサインが見られる場合は、専門の医療機関(精神科、心療内科など)への受診を強く検討してください。
- セルフチェックで、躁状態・軽躁状態とうつ状態の項目にそれぞれ複数該当する場合。
- 気分の波が、日常生活(仕事、学業、家事など)、人間関係、経済状況などに具体的な支障をきたしている場合。
- 家族や友人など、周囲の人から「最近、以前と様子が違う」「気分の波が激しい」などと指摘された場合。
- うつ病と診断されて治療を受けているが、抗うつ薬を服用しても症状が改善しない、あるいは逆にイライラしたり活動的になったりする場合(双極性障害の可能性があります)。
- 自分自身の気分の波に困っている、どのように対処したら良いかわからない場合。
- 死にたいという気持ちが強い場合(緊急性が高いため、速やかに医療機関を受診してください)。
早期の正確な診断は、適切な治療につながり、病状を安定させてより良い生活を送るために非常に重要です。一人で悩まず、まずは専門家に相談してみましょう。
双極性障害と診断された場合の治療法
双極性障害と診断された場合、適切な治療によって病状をコントロールし、安定した状態を維持することが可能です。治療の目標は、気分の波を抑え、再発を予防し、患者さんが社会生活や人間関係を円滑に送れるようにすることです。
主な治療法は以下の通りです。
- 薬物療法:
- 気分安定薬: 双極性障害の治療の柱となる薬です。リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどがあります。躁状態とうつ状態の両方を予防・改善する効果が期待できます。再発予防効果も高いです。
- 非定型抗精神病薬: 躁状態や混合状態の治療、あるいは気分安定薬の効果が不十分な場合に使用されます。再発予防効果を持つものもあります。
- 抗うつ薬: うつ状態に対して使用されることがありますが、双極性障害の場合、抗うつ薬のみの使用や単剤での使用は、躁転(うつ状態から躁状態に移行すること)や急速交代化のリスクを高める可能性があるため、気分安定薬などと併用するなど慎重に使用されます。
- その他: 睡眠薬や抗不安薬が補助的に使用されることもあります。
薬の種類や用量は、患者さんの症状、年齢、他の病気の有無、副作用などを考慮して医師が決定します。自己判断で薬を中止したり、量を変更したりすることは絶対にしないでください。
- 精神療法(心理療法):
- 心理教育: 病気について正しく理解し、対処法を学ぶための療法です。病気の症状、原因、治療法、再発のサインなどを学び、病気と付き合っていくための知識とスキルを身につけます。患者さんだけでなく、家族も一緒に学ぶことがあります。
- 対人関係・社会リズム療法(IPSRT): 対人関係の問題を解決し、生活リズム(特に睡眠リズム)を整えることに焦点を当てた療法です。生活リズムの乱れは気分の波を引き起こしやすいため、安定したリズムを保つことが病状安定に繋がります。
- 認知行動療法(CBT): 思考や行動のパターンを修正することで、うつ状態や不安に対処するスキルを身につける療法です。
- 生活リズムの調整:
- 規則正しい睡眠: 睡眠不足は躁状態を誘発することがあるため、毎日同じ時間に寝て起きるなど、規則正しい睡眠を心がけることが重要です。
- ストレス管理: ストレスは気分の波を引き起こす要因となり得るため、自分なりのストレス解消法を見つけ、上手に付き合っていくことが大切です。
- 適度な運動: 体を動かすことは気分の安定に役立ちます。
- 食生活: バランスの取れた食事も心身の健康のために重要です。
双極性障害の治療は、基本的に長期的なものとなります。病状が安定しても、再発予防のために薬物療法を継続することが多いです。医師との信頼関係を築き、根気強く治療に取り組むことが大切です。病気について学び、自分自身や周囲の変化に気づけるようになることも、病状を安定させる上で非常に重要です。
まとめ:双極性障害の可能性を感じたら専門家へ相談を
この記事では、双極性障害の可能性が気になる方のために、病気の基本的な特徴、簡易的なセルフチェックリスト、うつ病との違い、診断基準の概要、そして正確な診断のために医療機関を受診することの重要性について解説しました。
双極性障害は、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態という極端な気分の波を繰り返す病気です。この気分の波は、ご本人や周囲の人に大きな影響を与えることがあります。セルフチェックリストは、ご自身の気分の波を振り返るための一助となりますが、これはあくまで簡易的なものであり、医学的な診断ではありません。
双極性障害はうつ病と間違われやすい病気ですが、適切な診断と治療によって気分の波をコントロールし、安定した生活を送ることが可能です。もし、この記事のセルフチェックで気になる点があったり、ご自身の気分の波やそれに伴う生活への支障に悩んでいたりする場合は、一人で抱え込まず、必ず精神科や心療内科などの専門の医療機関を受診してください。
専門医は、詳細な問診や診断基準に基づいて、正確な診断を行います。早期に正確な診断を受けることが、適切な治療につながり、病状を安定させて回復を目指すための第一歩となります。
本記事で解説した内容に加え、以下の信頼できる情報源も参考に、ご自身の状態について理解を深めることができます。
【免責事項】
本記事の情報は、双極性障害に関する一般的な知識を提供することを目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。ご自身の健康状態について不安がある場合や、双極性障害の可能性を感じる場合は、必ず医師などの医療専門家の助言を仰いでください。本記事の情報に基づいて行った行動によって生じた損害については、当方では一切の責任を負いかねます。