双極性障害は、気分が異常に高ぶる「躁状態(あるいは軽躁状態)」と、気分がひどく落ち込む「うつ状態)」を繰り返す精神疾患です。
以前は「躁うつ病」とも呼ばれていましたが、単なる気分の波とは異なり、日常生活や社会生活に大きな支障をきたす病気です。この記事では、双極性障害の症状、原因、診断方法、最新の治療法まで、分かりやすく解説します。
気分変動に悩む方や、ご家族に該当する方がいる方は、ぜひ参考にしてください。まずは専門機関への相談を検討することをお勧めします。
双極性障害とは?(躁うつ病)
双極性障害は、文字通り「両極(双極)」の気分状態を繰り返すことが特徴的な精神疾患です。
高い気分の波である「躁状態」または「軽躁状態」と、低い気分の波である「うつ状態」が出現し、その間には比較的安定した「正常な気分」の時期(間欠期)があります。
この気分の波は、一時的な感情の起伏や性格的なものとは異なり、脳の機能障害によって引き起こされると考えられています。
双極性障害は、その気分の波の大きさや程度によって、大きく2つのタイプに分類されます。
後述しますが、症状の現れ方や重症度は人によって大きく異なります。
病気であることに気づきにくく、特にうつ状態の時だけ医療機関を受診し、「うつ病」と誤診されることも少なくありません。
適切な診断と治療を受けることが、症状を安定させ、日常生活を取り戻すために非常に重要となります。
躁状態・軽躁状態の症状
躁状態は、気分が異常に高揚し、活発になりすぎる状態です。
重度の躁状態では、現実との乖離が見られる場合もあります。
軽躁状態は、躁状態ほど重くはなく、日常生活に大きな支障をきたさないこともありますが、周囲から見て明らかにいつもと違う、活動的すぎる状態です。
躁状態・軽躁状態の主な症状としては、以下のようなものがあります。
- 気分が異常に高揚する、開放的になる、あるいは易怒的になる
- 自尊心が肥大する、または誇大妄想
- 睡眠欲求が減少する
- 多弁になる、あるいは話がとめどなくなる
- 観念奔逸(考えが次々と浮かび、まとまらない)
- 注意散漫になる
- 目標指向性の活動が増加する、あるいは精神運動性の焦燥
- 快楽的な活動に熱中する
軽躁状態では、これらの症状が躁状態ほど重くなく、明らかな社会生活や職業上の機能障害を引き起こさないことが特徴です。
しかし、周囲からは「いつもと違う」「やけに活動的だ」などと気づかれることが一般的です。
うつ状態の症状
うつ状態は、気分がひどく落ち込み、活動性が著しく低下する状態です。
単なる「憂鬱」とは異なり、日常生活を送ることが困難になるほど深刻な状態です。
うつ状態の主な症状としては、以下のようなものがあります。
- 抑うつ気分
- 興味または喜びの喪失
- 体重の著しい減少または増加、あるいは食欲の著しい減少または増加
- 不眠または過眠
- 精神運動性の焦燥または制止
- 疲労感または気力の減退
- 無価値感または過剰あるいは不適切な罪悪感
- 思考力、集中力、決断力の低下
- 死についての反復思考、自殺念慮または自殺企図
双極性障害のうつ状態は、単極性うつ病(いわゆるうつ病)と似た症状を示しますが、治療法が異なるため、正確な診断が重要です。
特に、過眠や過食、鉛様麻痺(手足が鉛のように重く感じる)などの症状は、双極性障害のうつ状態に特徴的とされる場合があります。

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双極性障害のタイプ(1型と2型)
双極性障害は、その躁状態または軽躁状態の程度によって、主に「双極性障害1型」と「双極性障害2型」に分類されます。
この分類は、診断や治療方針の決定において重要な意味を持ちます。
双極性障害1型
双極性障害1型は、少なくとも1回以上の明らかな「躁病エピソード」を経験したことがある場合に診断されます。
躁病エピソードとは、上記で説明した躁状態が一定期間続き、日常生活や社会生活に著しい支障をきたすか、入院が必要になるほどの重症度を持つものを指します。
うつ病エピソードを経験することも多いですが、診断には躁病エピソードの既往があれば十分とされます。
1型の場合、躁状態の時の判断力の低下や衝動的な行動が、経済的な問題(浪費、借金)、人間関係の破綻(攻撃的な言動、不倫)、法的な問題(無謀運転、トラブル)などを引き起こすリスクが高く、注意が必要です。
双極性障害2型
双極性障害2型は、少なくとも1回以上の「軽躁病エピソード」と「うつ病エピソード」を経験したことがある場合に診断されます。
双極性障害1型のような重い躁状態(躁病エピソード)を経験したことがない点が、1型との大きな違いです。
2型の場合、軽躁状態は本人や周囲が病的な状態だと気づきにくく、むしろ「調子が良い時期」「活動的で creative な時期」と捉えられることもあります。
そのため、うつ状態の時にだけ医療機関を受診し、単極性うつ病と誤診されているケースが多く見られます。
しかし、軽躁状態が繰り返されること自体が病気の特徴であり、うつ状態に陥るリスクが高いため、適切な治療が必要です。
双極性障害1型と2型の違い
双極性障害1型と2型の最も重要な違いは、経験する気分の波の「高さ(躁状態の重症度)」です。
特徴 | 双極性障害1型 | 双極性障害2型 |
---|---|---|
躁状態の程度 | 重い躁状態(躁病エピソード)を少なくとも1回経験 | 軽い躁状態(軽躁病エピソード)を少なくとも1回経験 |
うつ状態の経験 | 経験することが多いが、診断には必須ではない場合も | 必須(少なくとも1回以上のうつ病エピソード) |
社会生活への影響 | 躁状態・うつ状態ともに著しい影響が出やすい | うつ状態の時に影響が出やすい。軽躁状態は気づかれにくいことも |
診断の難しさ | 躁状態が目立つため、比較的診断されやすい | 軽躁状態が見落とされ、うつ病と誤診されやすい |
どちらのタイプであっても、放置すれば症状が悪化し、日常生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
正確な診断を受け、適切な治療を開始することが重要です。
また、診断時には1型と2型に分類されますが、病気の経過中に1型から2型、あるいは2型から1型へ移行することもあります。
双極性障害の原因
双極性障害のはっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、近年の研究により、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的な要因、脳の機能的・構造的な変化、そして環境的な要因が相互作用していると見られています。
主な原因として考えられる要因(遺伝・脳機能など)
双極性障害の発症には、遺伝的な要因が関与していることが多くの研究で示唆されています。
家族に双極性障害の人がいる場合、そうでない場合と比較して発症リスクが高まることが分かっています。
ただし、特定の単一遺伝子が原因というわけではなく、複数の遺伝子が関与する「多遺伝子疾患」であると考えられています。
また、遺伝的要因があっても必ず発症するわけではなく、環境要因との相互作用が重要視されています。
脳機能の異常も、双極性障害の重要な原因の一つとして考えられています。
特に、気分や感情、思考などを調整する脳の部位(例:前頭前野、扁桃体、海馬など)の機能や構造に変化が見られるという研究報告があります。
これらの部位における神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)の働きやバランスの異常も、症状に関わっていると考えられています。
躁状態とうつ状態では、脳内で働く神経伝達物質のバランスが異なると推測されており、これが気分の波を引き起こすメカニズムの一つと考えられています。
環境要因やストレス
生物学的な要因に加え、環境的な要因や心理社会的なストレスも双極性障害の発症や再発に影響を与えると考えられています。
大きなライフイベント(進学、就職、結婚、出産、引っ越し、親しい人との死別や離別など)や、慢性的なストレス、睡眠不足、過労などは、気分の波を誘発したり、症状を悪化させたりする引き金(トリガー)となることがあります。
特に、睡眠リズムの乱れは双極性障害と密接に関連しており、不規則な生活や夜勤などが病状に悪影響を及ぼすことが知られています。
また、アルコールや薬物の使用も、気分の変動を悪化させたり、治療薬の効果を妨げたりする可能性があります。
環境要因は、遺伝的素因を持つ人が発症するきっかけとなったり、病状を不安定にさせたりする重要な要素です。
しかし、逆に言えば、環境を整え、ストレスを適切に管理することで、病状の安定や再発予防につなげることが可能です。
双極性障害の原因と幼少期
幼少期の経験が、後の双極性障害の発症リスクに影響を与える可能性も指摘されています。
虐待やネグレクト、親との不安定な関係、複雑な家庭環境など、幼少期の逆境的体験は、ストレス反応システムの発達に影響を及ぼし、精神疾患を含む様々な健康問題のリスクを高めることが知られています。
双極性障害においても、幼少期のトラウマやストレスが、脳の発達や機能に影響を与え、病気の脆弱性を高めるという研究が進められています。
ただし、幼少期の経験だけが原因で双極性障害になるわけではありません。
遺伝的要因や脳機能異常といった生物学的脆弱性に加え、幼少期の経験が複雑に絡み合うことで、発症リスクが増加すると考えられています。
重要なのは、特定の原因を断定することよりも、複数の要因が相互作用して発症するという理解を持つことです。
そして、発症してしまった場合には、原因探しに固執するのではなく、適切な治療と再発予防のための対策に取り組むことが最も大切です。
双極性障害の診断
双極性障害の診断は、専門医による詳細な問診、病歴の聴取、現在の症状の評価に基づいて行われます。
特定の血液検査や画像検査で診断できるものではありません。
診断基準に照らし合わせながら、症状のパターンや経過を慎重に見極める必要があります。
診断基準について
双極性障害の診断には、世界的に広く用いられている診断基準が参考とされます。
代表的なものに、アメリカ精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』や、世界保健機関(WHO)が定める『国際疾病分類(ICD)』があります。
これらの診断基準には、躁病エピソード、軽躁病エピソード、うつ病エピソードのそれぞれについて、期間や症状の数、重症度に関する具体的な基準が定められています。
例えば、躁病エピソードの診断基準には、「異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的な気分と、異常かつ持続的に増加した、目標指向性の活動またはエネルギーの期間が、少なくとも1週間(または入院が必要ならそれより短くても)続く」といった項目があります。
さらに、その期間中に特定の症状(自尊心の肥大、睡眠欲求の減少、多弁など)が複数個出現することも要件とされます。
専門医は、これらの基準を参照しながら、患者さんの語る症状やご家族からの情報、これまでの病歴などを総合的に判断して診断を行います。
自己診断は非常に難しいため、必ず専門家の評価を受ける必要があります。
診断の難しさ(うつ病との鑑別)
双極性障害の診断は、時に非常に難しい場合があります。
特に双極性障害2型は、うつ状態の時に医療機関を受診することが多く、軽躁状態が本人や周囲に病気と認識されにくいため、「うつ病」と誤診されてしまうケースが少なくありません。
うつ病と双極性障害のうつ状態は、見た目の症状が似ていることが多いため、過去の軽躁エピソードを見落としてしまうと、うつ病として診断されてしまいます。
しかし、うつ病と双極性障害では、治療薬が異なります。
双極性障害にうつ病で用いられる抗うつ薬を単独で使用すると、躁転(うつ状態から躁状態へ移行すること)を誘発したり、病状が不安定になったりするリスクがあるため、正確な鑑別診断が非常に重要です。
診断をより正確にするためには、患者さん自身の詳細な病歴(過去の気分の波、活動レベルの変化、睡眠時間の変化、衝動的な行動など)の情報提供が非常に重要です。
また、可能であれば、患者さんの普段の様子をよく知るご家族や親しい友人などからの情報(インフォーマント情報)も、診断の助けとなります。
診察時には、過去の「いつもと違うハイな状態」や「短時間睡眠でも平気だった時期」について、具体的に医師に伝えるように心がけましょう。
専門機関での診断の重要性
双極性障害の診断は、専門的な知識と経験が必要です。
気分の波は、双極性障害以外にも、他の精神疾患(例:統合失調症、境界性パーソナリティ障害など)や、身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)、薬物やアルコールの影響によっても引き起こされることがあります。
これらの可能性を除外するためにも、精神科や心療内科などの専門医療機関を受診し、正確な診断を受けることが不可欠です。
「もしかしたら双極性障害かもしれない」「うつ病と診断されているけれど、どうも気分の波があるようだ」と感じる場合は、遠慮なくセカンドオピニオンを求めたり、双極性障害の診断・治療経験が豊富な専門医に相談したりすることをお勧めします。
早期かつ正確な診断が、その後の適切な治療と病状の安定につながる第一歩となります。
双極性障害の治療法
双極性障害は、適切な治療を継続することで、多くの患者さんが症状をコントロールし、安定した日常生活を送ることが可能になります。
治療の中心は薬物療法ですが、精神療法や心理社会的治療、そして再発予防のためのセルフケアも非常に重要です。
薬物療法(気分安定薬、抗精神病薬など)
双極性障害の治療の最も重要な柱となるのが薬物療法です。
気分安定薬を中心に、必要に応じて抗精神病薬などが用いられます。
抗うつ薬は、双極性障害のうつ状態に使用されることもありますが、躁転のリスクがあるため、通常は気分安定薬や抗精神病薬と併用して慎重に使用されます。
主な薬の種類とその役割は以下の通りです。
- 気分安定薬:
- リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどが代表的です。
- 気分の波(躁状態とうつ状態)を安定させ、症状の悪化や再発を予防する目的で使用されます。
- 躁状態に効果があるもの、うつ状態に効果があるもの、両方に効果があるものなど、薬によって特徴が異なります。
- 定期的な血液検査が必要な薬もあります(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)。
- 非定型抗精神病薬:
- オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、ルラシドンなどが用いられます。
- 特に躁状態や混合状態(躁とうつが同時に現れる状態)に効果があることが多いです。双極性障害のうつ状態にも有効な薬があります。
- 気分安定作用も期待できるため、維持療法(再発予防)としても使用されます。
- 抗うつ薬:
- うつ状態が重い場合に、気分安定薬などと併用して短期間使用されることがあります。
- 単独で使用すると躁転のリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
薬の種類や量は、患者さんの症状、年齢、既往歴、他の病気の有無、体質などを考慮して、医師が慎重に決定します。
効果が出るまでに時間がかかる場合や、副作用が出現する場合もありますが、自己判断で中断したり、量を変更したりすることは非常に危険です。
必ず医師の指示に従って服用することが重要です。
精神療法・心理社会的治療
薬物療法に加え、精神療法や心理社会的治療も双極性障害の治療に有効です。
これらの治療は、患者さんが病気について正しく理解し、症状への対処法を身につけ、安定した生活を送ることをサポートする目的で行われます。
代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
- 心理教育:
- 双極性障害という病気についての知識(症状、原因、治療法、経過など)を患者さん自身やご家族が学ぶプログラムです。
- 病気を正しく理解することで、治療への取り組みが積極的になり、再発の早期発見や対処につながります。
- 認知行動療法(CBT):
- 気分の波に関連する考え方(認知)や行動のパターンを理解し、より現実的で建設的なものに変えていくことで、症状の改善や再発予防を目指します。
- うつ状態や不安症状に効果があることが示されています。
- 対人関係・社会リズム療法(IPSRT):
- 対人関係の問題や、生活リズム(特に睡眠覚醒リズム)の乱れが気分の波に影響するという考えに基づいた療法です。
- 対人関係の問題を解決したり、規則正しい生活リズムを確立・維持したりすることで、気分の安定を図ります。双極性障害の再発予防に特に有効性が示されています。
- 家族療法:
- 患者さんだけでなく、ご家族も一緒に参加する治療です。
- 病気への理解を深め、患者さんへの接し方やサポートの方法を学び、家族全体のストレス軽減や良好なコミュニケーションを促進します。
これらの精神療法は、薬物療法を補完し、患者さんが病気と上手く付き合いながら、より質の高い生活を送るために役立ちます。
どのような精神療法が適しているかは、個々の患者さんの状況によって異なりますので、主治医と相談して決めましょう。
再発予防のための取り組み
双極性障害は、症状が改善しても再発しやすい病気です。
そのため、治療の最終的な目標は症状を完全に消失させることだけでなく、再発をいかに防ぎ、安定した状態を維持するかという点に重点が置かれます。
再発予防のためには、薬物療法を継続することに加え、患者さん自身の能動的な取り組みが非常に重要です。
再発予防のための主な取り組みとしては、以下のようなものがあります。
- 服薬アドヒアランス(医師の指示通りに薬を服用すること)の徹底:
- 症状が安定しても、自己判断で薬を中止したり減量したりすると、高確率で再発します。
- 必ず医師の指示通りに薬を飲み続けることが最も重要です。
- 規則正しい生活リズムの維持:
- 特に睡眠覚醒リズムを一定に保つことが重要です。
- 毎晩同じ時間に寝て、毎朝同じ時間に起きるように心がけましょう。
- 週末も大きなずれがないようにすることが望ましいです。
- ストレスの管理:
- ストレスは気分の波を誘発するトリガーとなる可能性があります。
- ストレスの原因を特定し、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。
- リラクゼーション技法、軽い運動、趣味などが有効です。
- 気分の波の早期発見と対処:
- 自分自身の気分のパターンや、躁状態やうつ状態になる前の初期サイン(例:いつもより眠らなくても平気、買い物が増える、イライラしやすい、朝起きるのが辛い、人に会いたくないなど)を把握しておくことが重要です。
- 初期サインに気づいたら、早めに休息をとる、医師に相談する、予めの対処計画(クライシスプラン)を実行するなど、早期に対処することで、症状の悪化を防ぐことができます。
- 日記や気分記録の活用:
- 毎日の睡眠時間、活動レベル、気分、出来事などを記録することで、自分自身の気分のパターンやトリガーを客観的に把握するのに役立ちます。
- アルコールやカフェインの制限:
- これらは気分の変動を悪化させる可能性があります。
- 摂取量に注意が必要です。
- 定期的な通院:
- 症状が安定していても、定期的に主治医の診察を受け、病状の変化や薬の効果・副作用について相談することが大切です。
これらの取り組みを日常生活に取り入れることで、再発のリスクを減らし、安定した状態を長く維持することが期待できます。
双極性障害は完治する?(寛解を目指す治療)
双極性障害は、糖尿病や高血圧のような慢性疾患と捉えられることが多いです。
残念ながら、「完全に治って二度と症状が出ない状態(完治)」にまで至ることは難しいのが現状です。
しかし、これは悲観すべきことではありません。
双極性障害の治療目標は、「寛解(かんかい)」と呼ばれる状態を目指すことです。
寛解とは、病気の症状が軽減または消失し、安定した状態が維持されていることを指します。
適切な治療を継続し、上記のような再発予防策を講じることで、多くの患者さんが寛解状態を維持し、病気になる前と同じように、あるいはそれ以上に充実した日常生活や社会生活を送ることが可能になります。
たとえ症状が再び現れたとしても、早期にサインに気づき、適切に対処することで、症状の悪化を防ぎ、早い段階で回復させることができます。
病気と上手く付き合いながら、再発を防ぎ、より安定した生活を送ることを目指すことが、双極性障害の治療における現実的かつ重要な目標となります。
双極性障害と関連する疑問
双極性障害について、よく聞かれる疑問や、多くの人が関心を持つ点について解説します。
双極性障害になりやすい性格はありますか?
特定の性格特性が直接的に双極性障害を引き起こすわけではありませんが、いくつかの性格傾向が双極性障害の発症や病状に影響を与える可能性が研究されています。
例えば、活動的でエネルギッシュ、社交的で新しいことに挑戦するのが好き、感情の起伏が大きい、衝動的、完璧主義といった特性を持つ人が、双極性障害の気質を持っているとされることがあります。
これらの気質は、病的な躁状態や軽躁状態とは異なりますが、ストレスや他の要因と組み合わさることで、病気として発現する脆弱性となる可能性が指摘されています。
ただし、これらの性格傾向を持つ人が必ずしも双極性障害になるわけではありませんし、双極性障害の患者さんが必ずしもこれらの性格特性を持つわけでもありません。
性格と病気の発症機序は複雑であり、性格自体を病気と捉えるべきではありません。
重要なのは、自身の気質を理解し、病気の発症や悪化につながる可能性のある要因(例:過労、睡眠不足、過度なストレス)に注意し、適切なセルフケアを心がけることです。
双極性障害と知能・才能の関係
双極性障害と知能や才能との関連性については、古くから議論があり、様々な研究が行われています。
躁状態や軽躁状態では、創造性や生産性が高まったり、アイデアが次々と湧いてきたりすることがあります。
実際に、歴史上の著名な芸術家、作家、科学者、思想家の中には、双極性障害であった可能性が指摘されている人物も少なくありません。
しかし、これはあくまで「病気の状態にある時に、一部の能力が一時的に高まるように見えることがある」ということであり、双極性障害であること自体が知能や才能が高いことを意味するわけではありません。
むしろ、重度の躁状態では、思考のまとまりがなくなり、判断力が低下するため、創造的な活動どころか、日常生活すら送ることが困難になります。
うつ状態では、思考力や集中力が著しく低下し、何も考えられなくなることがあります。
病気が適切に治療され、寛解状態にある時であっても、気分の波によって思考や活動レベルが影響を受ける可能性はあります。
才能や創造性を発揮するためには、病状を安定させ、心身ともに健康な状態を維持することが最も重要です。
双極性障害を美化したり、「才能があるから仕方ない」と放置したりすることは、本人にとって非常に危険です。
双極性障害を公表している有名人
双極性障害であることを公表している有名人や著名人は世界中に多数存在します。
彼らが自身の病気について語ることは、双極性障害に対する社会の理解を深め、同じ病気に苦しむ人々が一人ではないと感じる上で大きな意義があります。
例を挙げると、音楽界、俳優、作家、政治家など、様々な分野で活躍されている方々が双極性障害と診断され、治療を受けながら活動を続けていることを明らかにしています。
彼らの経験談は、双極性障害が誰にでも起こりうる病気であること、そして適切な治療によって病気と付き合いながら社会生活を送ることが可能であることを示しています。
ただし、有名人の例はあくまで個々のケースであり、双極性障害の症状や経過は人それぞれ大きく異なります。
特定の有名人の例だけを見て、病気全体を判断したり、自分の症状と比較したりすることは避け、あくまで参考の一つとして捉えることが大切です。
重要なのは、病気に対する正しい知識を持ち、専門家による適切な診断と治療を受けることです。
双極性障害かもしれないと感じたら
「もしかしたら自分は双極性障害かもしれない」「最近、気分の波が大きくて、日常生活に支障が出ている」と感じたら、一人で悩まず、まずは専門家に相談することが非常に重要です。
早期の相談と適切な診断・治療開始が、病状の安定と回復への最も確実な道です。
どこに相談すれば良い?(受診先)
双極性障害の診断と治療は、精神科医が行います。
まずは精神科、または心療内科を受診しましょう。
どちらの科でも精神疾患を扱いますが、一般的には精神科の方がより幅広い精神疾患に対応しており、重症例や複雑なケースにも対応可能です。
可能であれば、双極性障害の診療経験が豊富な医師や医療機関を選ぶと良いでしょう。
受診先の探し方としては、以下のような方法があります。
- かかりつけ医に相談する
- 地域の精神保健福祉センターに相談する
- インターネットで「(お住まいの地域名) 精神科」「(お住まいの地域名) 双極性障害 病院」などで検索する
- 家族や友人に相談する
予約が必要な医療機関がほとんどですので、事前に電話やインターネットで確認しましょう。
初めて受診する際には、これまでの症状の経過、気分の波のパターン、病歴、服用中の薬、家族歴などをまとめておくと、診察がスムーズに進みます。
周囲ができるサポート
双極性障害は、患者さん本人だけでなく、ご家族や周囲の人々にも大きな影響を与える病気です。
周囲の理解と適切なサポートは、患者さんの回復や病状の安定にとって非常に重要です。
周囲の人ができるサポートとしては、以下のようなものがあります。
- 病気について正しく理解する
- 患者さんの話を聴く
- 受診や治療継続をサポートする
- 気分の波のサインに気づく
- 患者さんを責めない
- 休息とストレス軽減を促す
- 自身のケアも怠らない
双極性障害は、適切なサポートがあれば、患者さんも周囲の人も共に病気と向き合い、乗り越えていくことが可能です。
まとめ:双極性障害の理解と適切な対応を
双極性障害は、気分が異常に高揚する「躁状態(軽躁状態)」と、気分がひどく落ち込む「うつ状態)」を繰り返す慢性の精神疾患です。
その気分の波は、単なる感情の起伏とは異なり、脳の機能障害によって引き起こされると考えられており、日常生活や社会生活に深刻な影響を及ぼします。
双極性障害には、重い躁状態を伴う1型と、軽い躁状態と重いうつ状態を伴う2型があり、特に2型はうつ病と誤診されやすい傾向があります。
病気の原因はまだ完全に解明されていませんが、遺伝的要因、脳機能の異常、環境要因、ストレスなどが複雑に絡み合って発症すると考えられています。
正確な診断は、専門医による詳細な問診と病歴の評価に基づいて行われます。
自己判断は避け、必ず精神科や心療内科などの専門医療機関を受診することが重要です。
双極性障害の治療は、主に気分安定薬や非定型抗精神病薬などを用いた薬物療法が中心となります。
これに加え、心理教育、認知行動療法、対人関係・社会リズム療法などの精神療法も有効です。
治療の目標は「完治」ではなく、症状をコントロールし、安定した状態を維持する「寛解」を目指すことです。
治療を継続することに加え、規則正しい生活、ストレス管理、気分の波の早期発見と対処といった再発予防のための取り組みが非常に重要となります。
もし、ご自身やご家族、身近な人に双極性障害の症状かもしれないと思われるような気分の波が見られる場合は、一人で抱え込まず、速やかに専門機関に相談してください。
地域の精神保健福祉センターや、精神科・心療内科の医療機関が相談先となります。
周囲の人々も、病気について正しく理解し、患者さんをサポートすると同時に、自身のケアも大切にすることで、共に病気と向き合っていくことが可能です。
双極性障害は、適切な診断と治療、そして周囲の理解とサポートがあれば、病気と上手く付き合いながら、安定した日常生活を送ることが十分に可能な病気です。
まずは病気への正しい理解を深め、適切な対応を始めていきましょう。
免責事項
本記事は、双極性障害に関する一般的な情報を提供することを目的としており、医学的なアドバイスや診断、治療の代替となるものではありません。
個々の症状や状況については、必ず専門の医師にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行われた行動によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。