オランザピンは、統合失調症や双極性障害(躁病・うつ病)などの精神疾患の治療に広く用いられているお薬です。「ジプレキサ」という名前で聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これらの疾患は、脳内の神経伝達物質(特にドーパミンやセロトニン)のバランスが崩れることで様々な症状を引き起こします。オランザピンは、これらの神経伝達物質の働きを調整することで、幻覚、妄想、気分の波、意欲の低下といったつらい症状を和らげ、日常生活を送るのを助けることを目的としています。
しかし、どんなお薬にも効果だけでなく副作用のリスクがあります。特にオランザピンは、効果が高い一方で「太る」「眠くなる」「血糖値が上がる」といった副作用が気になるという声もよく聞かれます。また、自己判断で服用を中止したり、減らしたりすることには注意が必要です。
この記事では、オランザピンの効果や作用の仕組み、そして気になる副作用について詳しく解説します。さらに、安全な服用方法、服用上の注意点、そして他の抗精神病薬との違いについても触れていきます。オランザピンについて正しく理解し、治療を続ける上での不安や疑問を解消するためにお役立てください。必ず医師や薬剤師の指示に従い、不明な点があれば遠慮なく相談することが大切です。

- 当日受診OK!平日0時まで対応可能
- スマホで完結通院・待合室ゼロ
- 即日診断書発行!休職・傷病手当サポート
- うつ・適応障害・不眠など精神科対応
- 100%オンライン薬の配送まで完結
オランザピンとは?(ジプレキサとの関係)
オランザピンは、非定型抗精神病薬に分類されるお薬の成分名です。精神疾患の治療薬として、世界中で広く使用されています。
オランザピン(ジプレキサ)の先発品とジェネリック
オランザピンという成分を含むお薬の中で、最初に開発・販売されたのが「ジプレキサ錠」です。このジプレキサが「先発医薬品」または「新薬」と呼ばれます。
先発医薬品の特許期間が満了した後、他の製薬会社が同じ有効成分(オランザピン)を使って製造・販売できるようになったのが「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」です。ジェネリック医薬品は、先発医薬品と同じ有効成分が同じ量だけ含まれており、効果や安全性も先発医薬品と同等と認められています。ただし、錠剤の色や形、添加物、価格などが異なる場合があります。
日本では、ジプレキサ錠が2000年に販売開始され、その後多くの製薬会社からオランザピンを成分とするジェネリック医薬品が販売されています。価格はジェネリック医薬品の方が安価であることが多いです。
オランザピンの剤形と種類
オランザピンには、患者さんの状態や服用方法に合わせて、いくつかの異なる剤形があります。
- 錠剤: 最も一般的な剤形です。通常、水と一緒に服用します。様々な用量(例:2.5mg, 5mg, 10mg)があります。
- 細粒: 錠剤を服用するのが難しい方や、用量調整が必要な場合に用いられます。水に溶かしたり、少量のお水で練ったりして服用します。
- 口腔内崩壊錠(OD錠): 唾液で速やかに溶ける錠剤です。水なしで服用できるため、外出先や水分摂取が難しい場合などに便利です。「ジプレキサザイディス錠」という名称で販売されています。
- 注射剤: 緊急時や、経口での服用が難しい場合に用いられます。効果の発現が比較的早いという特徴があります。「ジプレキサ筋注用」という名称で販売されています。
これらの剤形の中から、医師が患者さんの症状、年齢、体の状態などを考慮して最適なものを選びます。自己判断で剤形や用量を変更せず、必ず医師の指示に従うことが重要です。
オランザピンの主な効果と作用
オランザピンは、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンなど、複数の受容体に作用することで効果を発揮します。特に、ドーパミンD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体への作用が主な薬効に関わると考えられています。これらの作用により、様々な精神症状を改善します。
統合失調症への効果
統合失調症は、思考や感情をまとめる能力が障害される疾患です。幻覚や妄想(陽性症状)、感情の起伏が乏しくなる・意欲が低下する・引きこもりがちになる(陰性症状)、物事を計画したり判断したりするのが難しくなる(認知機能障害)など、多様な症状が現れます。
オランザピンは、陽性症状と陰性症状の両方に効果があるとされています。
- 陽性症状への効果: 脳内の特定の部位でドーパミンが過剰に活動していることが関連していると考えられています。オランザピンはドーパミンD2受容体を適度にブロックすることで、幻覚や妄想といった陽性症状を鎮める効果が期待できます。
- 陰性症状への効果: 陰性症状にはセロトニンやドーパミンの特定の受容体への作用が関わると考えられています。オランザピンはセロトニン5-HT2A受容体への作用が強く、これが陰性症状の改善に寄与すると考えられています。他の非定型抗精神病薬と比較して、陰性症状への効果も期待できる点がオランザピンの特徴の一つです。
統合失調症の治療において、オランザピンは急性期の興奮や幻覚・妄想を抑える効果に加え、慢性期の陰性症状や認知機能障害にも一定の効果を示すことが報告されています。これにより、患者さんの社会生活機能の回復をサポートすることが期待されます。
双極性障害(躁病・うつ病)への効果
双極性障害は、気分が高揚する躁状態と気分が落ち込むうつ状態を繰り返す疾患です。
オランザピンは、双極性障害における躁病エピソードの治療に効果が認められています。気分の高まり、活動性の亢進、思考奔逸、多弁といった躁状態の症状を落ち着かせる作用があります。
また、双極性障害におけるうつ病エピソードの治療にも効果が認められており、抗うつ薬と併用して用いられることがあります。気分の落ち込み、興味・関心の喪失、倦怠感、不眠、食欲不振といったうつ症状を改善する効果が期待できます。
このように、オランザピンは双極性障害の躁状態とうつ状態の両方に対して使用されることがある気分安定作用を持つ薬剤として位置づけられています。
吐き気・嘔吐への効果
オランザピンは、抗精神病薬としての作用以外に、強い制吐作用(吐き気を抑える作用)を持っています。これは、脳の嘔吐に関わる部位にあるドーパミンやセロトニンの受容体にも作用するためと考えられています。
この制吐作用を利用して、特に抗がん剤治療に伴う強い吐き気や嘔吐の予防・治療目的で、オランザピンが使用されることがあります(保険適用外の場合があります)。ただし、これは本来の適応疾患ではないため、医師の専門的な判断のもとで行われます。
鎮静作用と不眠への影響
オランザピンは、ヒスタミンH1受容体やアドレナリンα1受容体などにも作用することで、強い鎮静作用を示すことがあります。この鎮静作用により、精神的な高ぶりや興奮を落ち着かせ、不安を和らげる効果が期待できます。
また、この鎮静作用が不眠の改善につながることもあります。特に、統合失調症や双極性障害に伴う不眠に対して、オランザピンの鎮静効果が睡眠を促すことがあります。しかし、オランザピンは直接的な睡眠薬として開発されたものではありません。あくまで精神疾患の治療薬であり、その副作用として眠気や鎮静が生じやすいという側面を利用して不眠の改善に繋がることがある、という位置づけです。不眠が主な症状である場合に単独で睡眠薬として処方されることは少ないと考えられますが、併存する精神症状の治療と合わせて不眠も改善することを期待して処方されることはあります。
オランザピンの気になる副作用
オランザピンは効果の高いお薬ですが、いくつかの副作用が比較的高い頻度で報告されています。特に患者さんやご家族が気にされることが多い副作用について詳しく見ていきましょう。
体重増加(太る)とその対策
オランザピンを服用している方から最も多く聞かれる懸念の一つが体重増加です。「太る」という副作用は、オランザピンの臨床試験でも比較的高い頻度で報告されており、治療の継続を妨げる原因となることもあります。
なぜ太りやすいのか?
オランザピンによる体重増加のメカニズムは完全に解明されていませんが、複数の要因が関わっていると考えられています。
- 食欲の増加: 特にヒスタミンH1受容体への作用などにより、食欲が増進しやすくなることがあります。高カロリーなものや甘いものを欲するようになる方もいます。
- 代謝への影響: 糖代謝や脂質代謝に影響を与え、摂取したカロリーが体脂肪として蓄積されやすくなる可能性が指摘されています。
- 活動量の低下: 鎮静作用による眠気や倦怠感から、日中の活動量が低下し、消費カロリーが減ることも体重増加につながります。
体重増加は単なる美容の問題だけでなく、糖尿病や脂質異常症、高血圧などのメタボリックシンドロームのリスクを高める可能性があります。
体重増加への対策
体重増加を完全に防ぐことは難しい場合もありますが、いくつかの対策を行うことで影響を最小限に抑えることが可能です。
- 食事の工夫:
- バランスの取れた食事を心がけ、間食や夜食を控える。
- 高カロリー、高脂肪、高糖質の食品を摂りすぎないように注意する。
- 食物繊維を豊富に含む野菜などを積極的に摂る。
- 適度な運動:
- ウォーキングなど、無理のない範囲で体を動かす習慣を取り入れる。
- 日常生活の中で活動量を増やす工夫をする(例:エレベーターを使わず階段を使う)。
- 医師・薬剤師への相談:
- 体重増加が著しい場合や、食事・運動だけでは改善が見られない場合は、必ず医師に相談しましょう。
- 他の薬剤への変更や、体重増加の比較的少ない別の抗精神病薬との併用など、様々な選択肢について話し合うことができます。
- 管理栄養士による栄養指導を紹介してもらえる場合もあります。
自己判断で薬を減らしたり中止したりすることは絶対に避けてください。 症状が悪化するリスクがあります。
眠気・めまい・ふらつき
オランザピンは強い鎮静作用を持つため、眠気は比較的起こりやすい副作用です。特に服用開始時や増量時に強く感じることがあります。
- 眠気: 日中の活動に影響したり、車の運転や危険を伴う機械の操作などが制限されたりすることがあります。通常、服用を続けるうちに軽減することが多いですが、症状が続く場合は服用時間を変更する(例:夜に服用する)など、医師に相談しましょう。
- めまい・ふらつき: 立ちくらみのような症状(起立性低血圧)や、平衡感覚が不安定になることがあります。これは、オランザピンが血圧を調整する受容体にも作用するためと考えられています。特に急に立ち上がったり、長時間同じ姿勢でいたりした後に起こりやすいです。転倒のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
これらの症状がある間は、車の運転や高所での作業など、危険を伴う活動は避けてください。症状が続く場合や強い場合は、医師に相談して用量調整や他の薬への変更を検討してもらいましょう。
血糖値上昇・糖尿病リスク
オランザピンを含む一部の非定型抗精神病薬では、血糖値の上昇や糖尿病の発症・悪化のリスクが報告されています。これは、インスリンの働きを妨げたり、インスリンの分泌を低下させたりすることなどが原因と考えられています。
- 症状: 初期には自覚症状がないことが多いですが、進行すると、喉が異常に渇く、尿の量が増える、疲れやすい、体重が減るなどの症状が現れることがあります。
- リスク因子: もともと糖尿病やその予備群(耐糖能異常)がある方、肥満の方、家族に糖尿病の方がいる方などはリスクが高いと考えられます。
- 対策:
- オランザピンを服用する際は、定期的に血糖値の検査を受けることが非常に重要です。医師の指示に従って、決められた時期に採血検査を受けましょう。
- 検査で異常が見つかった場合は、早期に適切な治療(食事療法、運動療法、必要に応じて糖尿病薬の使用など)を開始することで、重症化を防ぐことができます。
- 体重管理やバランスの取れた食事、適度な運動といった生活習慣の改善も、血糖値のコントロールに役立ちます。
既に糖尿病を治療中の方は、オランザピンを服用することで血糖コントロールが悪化する可能性があるため、必ず医師に伝えてください。また、服用中に糖尿病の症状が疑われる場合は、すぐに医師に相談しましょう。
その他の主な副作用
上記以外にも、オランザピンには様々な副作用が報告されています。多くは軽度で一時的なものですが、中には注意が必要なものもあります。
錐体外路症状
錐体外路症状は、不随意運動(自分の意思とは関係なく体が動いてしまう)などが現れる副作用の総称です。抗精神病薬の副作用として知られていますが、オランザピンは比較的錐体外路症状が出にくいとされています(他の旧来の定型抗精神病薬や一部の非定型薬と比較して)。しかし、全く起こらないわけではありません。
- アカシジア: じっとしていられず、ムズムズして動き回りたくなる落ち着きのなさ。
- ジストニア: 筋肉が勝手に収縮し、体がねじれたり固まったりする症状(首が曲がる、目が上を向くなど)。特に服用初期に起こりやすい。
- パーキンソニズム: 手足の震え(振戦)、筋肉のこわばり(筋強剛)、動作が遅くなる(寡動)、無表情(仮面様顔貌)など、パーキンソン病に似た症状。
- 遅発性ジスキネジア: 口をもぐもぐさせたり、舌を出したり、手足が勝手に動いたりする症状。長期服用している場合に現れることがあり、難治性となることもあります。
これらの症状が現れた場合は、速やかに医師に相談してください。用量調整や、症状を和らげるためのお薬(抗パーキンソン病薬など)が処方されることがあります。
高プロラクチン血症
プロラクチンは、通常、授乳期に乳汁の分泌を促すホルモンです。オランザピンは、脳の一部に作用してプロラクチンの分泌を促進させることがあります。これにより、血中のプロラクチン濃度が高くなる状態を「高プロラクチン血症」といいます。
- 症状:
- 女性:生理不順、無月経、乳汁分泌(授乳期以外)、不妊。
- 男性:性欲低下、勃起不全、乳房の腫れ、乳汁分泌(稀)。
- 頻度: 他の一部抗精神病薬(特にリスペリドンなど)と比較すると、オランザピンによる高プロラクチン血症の頻度は比較的低いとされています。
症状がある場合は医師に相談しましょう。プロラクチンの値を測定したり、他の薬剤への変更を検討したりすることがあります。
その他の副作用
- 便秘
- 口渇
- 倦怠感
- 動悸
- 立ちくらみ(起立性低血圧)
- 発疹、かゆみ
- 肝機能検査値の上昇
- 白血球減少 (稀ですが、重篤な副作用として無顆粒球症などがあります。発熱、喉の痛みなどがあればすぐに医療機関に連絡が必要です。)
- 横紋筋融解症 (稀ですが、筋肉痛、脱力感、尿の色が赤褐色になるなどの症状があれば注意が必要です。)
- 悪性症候群 (非常に稀ですが、発熱、意識障害、筋肉のこわばりなどが急に現れた場合は、直ちに救急医療機関を受診する必要があります。)
副作用の現れ方や程度には個人差があります。気になる症状が現れた場合は、自己判断せず必ず医師や薬剤師に相談してください。
オランザピンの離脱症状と減薬方法
精神疾患の症状が改善してきたからといって、自己判断でオランザピンの服用を中止したり、急に減らしたりすることは非常に危険です。急な中止や減量により、様々な不快な症状が現れることがあります。これを「離脱症状」と呼びます。
離脱症状の種類と期間
オランザピンの離脱症状として、以下のような症状が報告されています。
- 精神症状: 不安、焦燥感、イライラ感、興奮、気分の不安定、抑うつ気分、不眠、悪夢、錯乱。
- 身体症状: 吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、頭痛、めまい、ふらつき、倦怠感、発汗、振戦(手の震え)、筋肉痛、しびれ感。
これらの症状は、服用を中止または減量してから数日~数週間後に現れることがあり、数日から場合によっては数ヶ月続くこともあります。離脱症状は非常に辛く、元の疾患の症状が悪化したと間違えやすいこともあります。
安全な減薬・中止方法
オランザピンの服用を中止したり、減量したりする場合は、必ず医師の指示のもと、段階的に、ゆっくりと行うことが重要です。
- 医師との相談: まずは、病状が安定していること、薬を減らしたいという希望があることを医師に伝え、十分に話し合います。医師は、病状、これまでの治療経過、服用期間、現在の用量などを総合的に判断し、減量の計画を立てます。
- 段階的な減量: 医師の指示に従って、少しずつ用量を減らしていきます。減量のペースは、個々の患者さんの状態や症状を見ながら慎重に調整されます。数週間から数ヶ月かけて、非常にゆっくりと減量していくことも珍しくありません。
- 体調の変化を伝える: 減量中に体調の変化(離脱症状と思われる症状や、元の病気の症状のぶり返しなど)が現れた場合は、すぐに医師に伝えましょう。医師が減量のペースを調整したり、必要に応じて他の対策を講じたりします。
自己判断での急な中止・減量は、離脱症状を強く引き起こすだけでなく、元の病気の症状が再燃・悪化するリスクを非常に高めます。 再び治療が必要になったり、治療がより困難になったりすることも少なくありません。薬を減らしたい、やめたいと思った時は、必ず医師に相談し、安全な方法で進めるようにしましょう。
オランザピンの正しい服用方法と注意点
オランザピンの効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを最小限に抑えるためには、正しい方法で服用し、いくつかの注意点を守ることが重要です。
用法・用量
オランザピンの用法・用量は、治療する疾患の種類、患者さんの年齢、症状の程度、体の状態などによって医師が個別に判断します。添付文書に記載されている一般的な用法・用量の目安は以下の通りです。
- 統合失調症: 通常、成人にはオランザピンとして1日5~10mgを1回または2回に分けて服用を開始します。維持用量として、通常1日10mgを1回服用します。年齢・症状により適宜増減されますが、1日の最大量は20mgです。
- 双極性障害における躁病エピソード: 通常、成人にはオランザピンとして1日10mgを1回服用を開始します。年齢・症状により適宜増減されますが、1日の最大量は20mgです。
- 双極性障害におけるうつ病エピソード: 通常、成人にはオランザピンとして1日5mgを就寝前に服用を開始します。用量は1日5~20mgの範囲で適宜増減されます。
必ず医師から指示された用法・用量を厳守してください。 自己判断で用量を増やしたり減らしたりすることは、効果や安全性を損なう原因となります。
服用してはいけない人(禁忌)
以下に該当する方は、オランザピンを服用できません。必ず医師に該当するかどうかを伝えてください。
- オランザピンに対して過敏症(アレルギー症状)を起こしたことがある方
- 閉塞隅角緑内障の方: 眼圧を上昇させる可能性があるため。
- 腸管麻痺、消化管運動低下を起こしやすい方: 消化管の動きを抑える作用があるため。
- アドレナリンを投与されている方(アドレナリンは併用禁忌): 重篤な血圧低下を起こす可能性があります。
- 重症筋無力症の方: 症状を悪化させる可能性があるため。
上記以外にも、持病(心血管疾患、脳血管疾患、てんかん、糖尿病、肝臓病、腎臓病など)がある方や、高齢の方、妊婦または授乳婦の方は、服用可能かどうかを医師が慎重に判断する必要があります。必ず医師に正確な情報を伝えてください。
飲み合わせに注意が必要な薬
オランザピンは他の薬と併用することで、互いの作用を強めたり弱めたり、副作用のリスクを高めたりすることがあります。併用に注意が必要な主な薬剤を挙げますが、これ以外にも注意が必要な薬は多数あります。現在服用している全てのお薬(処方薬、市販薬、サプリメント、漢方薬など)を、必ず医師や薬剤師に伝えてください。
- アドレナリン: 併用禁忌です。血圧が急激に低下し、生命に関わる可能性があります。
- 中枢神経抑制薬(ベンゾジアゼピン系薬剤、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬など): 眠気や鎮静作用が強く現れることがあります。
- 降圧剤: 血圧を下げる作用が強まり、めまいや立ちくらみが起こりやすくなることがあります。
- 糖尿病治療薬: 血糖降下作用が弱まる可能性があり、血糖コントロールが悪化することがあります。
- QT延長を起こすことが知られている薬剤(一部の抗不整脈薬、抗うつ薬、抗生物質など): QT延長という不整脈のリスクを高める可能性があります。
- CYP1A2という酵素の働きに影響する薬剤(カルバマゼピン、リファンピシン、喫煙など): オランザピンの血中濃度に影響を与えることがあります。喫煙はオランザピンの効果を弱める可能性があるため、服用中の喫煙習慣についても医師に伝えることが推奨されます。
薬剤の種類だけでなく、健康食品やハーブ製品の中にも影響を及ぼす可能性のあるものがありますので、必ず医師や薬剤師に確認してください。
服用中の注意点(運転・飲酒など)
オランザピンを服用している間は、日常生活でいくつかの注意が必要です。
- 車の運転や危険を伴う機械の操作: 眠気、めまい、ふらつきなどが現れることがあるため、車の運転や高所での作業、危険な機械の操作などは避けてください。
- アルコール摂取: アルコールは中枢神経抑制作用を強めるため、オランザピンの眠気や鎮静作用が強く現れる可能性があります。服用中の飲酒は控えることが望ましいです。
- 急な立ち上がり: 立ちくらみ(起立性低血圧)を防ぐため、急に立ち上がったり、長時間同じ姿勢でいたりすることは避けましょう。
- 体重・血糖値の管理: 体重増加や血糖値上昇のリスクがあるため、定期的な体重測定や血糖値検査を受け、必要に応じて食事や運動に気を配りましょう。
- 妊娠・授乳: 妊娠中または妊娠の可能性がある方、授乳中の方は、必ず医師に伝えてください。治療の必要性とリスクを考慮して医師が判断します。
- 高齢者: 高齢者では副作用が現れやすいため、少量から開始するなど慎重に投与されることが多いです。
これらの注意点を守り、安全に治療を続けることが大切です。不安な点や疑問があれば、遠慮なく医師や薬剤師に相談しましょう。
オランザピンは精神安定剤?睡眠薬?
オランザピンがどのような作用を持つ薬なのか、他の分類の薬とどう違うのかについて疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
オランザピンは精神安定剤か?
広義の「精神安定剤」には、抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬など、精神症状を和らげる様々な薬が含まれることがあります。オランザピンは「抗精神病薬」に分類される薬です。
抗精神病薬は、主に脳内のドーパミン系の働きを調整することで、統合失調症の幻覚や妄想、双極性障害の躁状態といった精神病症状を改善することを目的としています。
オランザピンは、抗精神病作用に加え、気分安定作用や鎮静作用も持っています。そのため、精神的な高ぶりを抑え、不安を和らげるなど、結果として精神症状を安定させる作用も期待できます。この意味では、精神を安定させる薬の一つと言えますが、薬の分類としては抗精神病薬が最も適切です。
オランザピンは睡眠薬として使えるか?
オランザピンは、直接的に「睡眠薬」として開発された薬ではありません。しかし、前述のように強い鎮静作用を持っています。この鎮静作用により、服用後に眠気を感じたり、寝つきが良くなったりすることがあります。
そのため、統合失調症や双極性障害など、本来の適応疾患の治療と同時に、不眠の症状もある場合に、オランザピンの鎮静作用を利用して睡眠改善効果も期待して処方されることはあります。
ただし、オランザピンは副作用(特に体重増加や代謝系への影響)のリスクが比較的高いため、不眠が単独の症状である場合や、他の精神症状が軽く不眠だけを改善したいという目的で、第一選択としてオランザピンが睡眠薬として処方されることは少ないと考えられます。不眠の治療には、より副作用の少ない他の種類の睡眠薬が優先されることが一般的です。
結論として、オランザピンは抗精神病薬であり、睡眠薬ではありませんが、その鎮静作用により睡眠改善に繋がる可能性はあります。しかし、あくまで精神疾患の治療が主目的であり、不眠に対する使用は副次的、あるいは併存症状への対応として行われるものです。
オランザピンと他の抗精神病薬(リスペリドン・アリピプラゾールなど)
非定型抗精神病薬には、オランザピン以外にも様々な種類があります。それぞれの薬は、作用の仕方や得意な症状、副作用のプロファイルなどが異なります。ここでは、代表的な他の抗精神病薬と比較しながら、オランザピンの特徴をさらに見ていきましょう。
代表的な非定型抗精神病薬の比較(あくまで一般的な傾向です。個人差や用量によって異なります。)
薬剤名(一般名/先発品名) | 主な作用メカニズム | 効果の傾向 | 副作用の傾向 | その他 |
---|---|---|---|---|
オランザピン(ジプレキサ) | D2受容体・5-HT2A受容体など多受容体遮断 | 陽性症状、陰性症状、躁状態、うつ状態(併用)に効果。鎮静作用も強い。 | 体重増加、血糖値上昇、眠気、便秘、めまい。錐体外路症状・高プロラクチン血症は比較的少ない。 | 双極性障害への適応がある。OD錠や注射剤もある。 |
リスペリドン(リスパダール) | D2受容体・5-HT2A受容体遮断 | 陽性症状、陰性症状に効果。鎮静作用はオランザピンより弱い傾向。 | 錐体外路症状(特にアカシジア)、高プロラクチン血症、眠気、体重増加。 | 子供への適応がある。持続性注射剤もある。 |
アリピプラゾール(エビリファイ) | D2受容体部分作動、5-HT1A受容体部分作動、5-HT2A受容体遮断 | ドーパミン系の働きを調整。陽性症状、陰性症状、うつ病(併用)にも効果。賦活作用があることも。 | アカシジア(ムズムズ感)、不眠、吐き気。体重増加・高プロラクチン血症・血糖値上昇はオランザピンやリスペリドンより少ない傾向。 | 双極性障害、うつ病への適応がある。部分作動薬というユニークな作用を持つ。持続性注射剤や内用液もある。 |
ブレクスピプラゾール(レキサルティ) | D2受容体部分作動、5-HT1A受容体部分作動、5-HT2A受容体遮断 | アリピプラゾールに類似。陽性症状、陰性症状、うつ病(併用)に効果。 | アカシジア、体重増加。アリピプラゾールよりアカシジアが少ない可能性がある一方、体重増加はやや起こりやすい可能性がある。他の副作用は比較的少ない。 | 2018年に承認された新しい薬。うつ病(既存治療で効果不十分な場合)への適応がある。 |
リスペリドンとの違い
リスペリドンは、オランザピンと同様にドーパミンD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体を遮断する作用を持ちますが、作用の仕方に違いがあります。一般的に、リスペリドンはオランザピンよりも錐体外路症状(特にアカシジア)や高プロラクチン血症が起こりやすい傾向があります。一方、オランザピンはリスペリドンよりも体重増加や代謝系(血糖値など)への影響が大きい傾向があります。鎮静作用はオランザピンの方が強いことが多いです。
アリピプラゾールとの違い
アリピプラゾールは、ドーパミンD2受容体に対して「部分作動薬」として働くという点が他の多くの抗精神病薬と異なります。ドーパミンが過剰な状態ではドーパミン受容体をブロックするように働き、ドーパミンが不足している状態ではドーパミン受容体を刺激するように働くという、ドーパミン系の働きを安定化させる作用を持ちます。この作用機序の違いから、アリピプラゾールは体重増加や代謝系への影響、高プロラクチン血症のリスクがオランザピンやリスペリドンと比較して少ないとされています。ただし、アカシジア(ムズムズ感)が起こりやすいという副作用の傾向があります。また、鎮静作用はオランザピンより弱いことが多いです。
レキサルティとの違い
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)は、アリピプラゾールと同様にD2受容体部分作動薬であり、作用機序や効果、副作用のプロファイルがアリピプラゾールと似ています。アリピプラゾールで問題となるアカシジアが、レキサルティでは比較的少ないという意見もありますが、体重増加についてはアリピプラゾールよりやや起こりやすい可能性も指摘されています。まだ比較的新しい薬であり、今後の臨床での使用経験によってさらに詳しい特徴が明らかになっていくと考えられます。
どの薬が最適かは、患者さんの症状の種類や重症度、過去の治療歴、併存疾患、他の薬との飲み合わせ、副作用の出やすさなどを医師が総合的に判断して決定します。薬を変更する際は、必ず医師と十分に話し合い、納得した上で治療を進めることが大切です。
オランザピンに関するよくある質問
オランザピンについて、患者さんやご家族がよく疑問に思う点についてQ&A形式でまとめました。
オランザピンは何に効く薬ですか?
オランザピンは主に以下の疾患の治療に用いられます。
- 統合失調症: 幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情の平板化などの陰性症状を改善します。
- 双極性障害: 気分が高揚する躁病エピソードの治療に用いられるほか、うつ病エピソードの治療に抗うつ薬と併用して用いられることもあります。
本来の適応疾患ではありませんが、医師の判断で抗がん剤治療に伴う吐き気・嘔吐の予防にも使用されることがあります。
オランザピンは精神安定剤ですか?
オランザピンは薬の分類としては抗精神病薬です。抗精神病薬は、統合失調症や双極性障害などの精神病症状を改善することを目的としています。しかし、精神的な高ぶりや興奮を抑えたり、不安を和らげたりする作用もあるため、広義には精神を安定させる薬の一つと言えます。
オランザピンは睡眠薬ですか?
オランザピンは睡眠薬ではありません。しかし、副作用として強い鎮静作用があるため、服用後に眠気を感じやすく、不眠の改善につながることがあります。統合失調症や双極性障害に伴う不眠に対して、本来の疾患治療とともに睡眠改善を期待して処方されることはありますが、不眠単独の治療に第一選択薬として用いられることは少ないです。
オランザピンはどんな時に使用しますか?
主に統合失調症や双極性障害の診断を受けた際に、医師が患者さんの症状や状態、他の治療法との兼ね合いなどを考慮して処方します。急性期に興奮や精神病症状が強い場合や、慢性期に症状を安定させ維持するために使用されます。双極性障害では、躁状態やうつ状態のエピソード治療に使われます。
オランザピンをやめたい時は?
オランザピンの服用を中止したり、減量したりしたい場合は、必ず医師に相談してください。自己判断で急にやめると、離脱症状が現れたり、病気の症状が再燃・悪化したりするリスクが非常に高くなります。医師は病状を慎重に評価し、安全な減量計画を立ててくれます。時間をかけてゆっくりと減量していくことが大切です。
オランザピンの服用で「やばい」「人生終わり」と感じる不安について
インターネット上の情報などで、オランザピンに対して「やばい」「人生終わり」といった極端な表現を見かけることがあるかもしれません。これらの表現は、主に以下のような不安に基づいていると考えられます。
- 副作用への強い懸念: 特に体重増加や代謝系副作用(糖尿病リスク)、眠気など、日常生活に影響する副作用を過度に恐れる。
- 薬に対する否定的なイメージ: 精神疾患に対する偏見や、精神科の薬に対する誤解から、「一生飲み続けなければならない」「薬で人格が変わってしまう」といった根拠のない不安を抱く。
- 体験談の極端な例: 一部の患者さんの重い副作用体験などが強調されて伝わることで、全員に同じことが起こるのではないかと不安になる。
オランザピンを含む精神科の薬は、確かに副作用のリスクがあります。しかし、それは医師が患者さんの状態を慎重に診察した上で、薬の効果によるメリットが副作用のリスクを上回ると判断した場合に処方されるものです。正しく使用すれば、つらい症状を和らげ、日常生活を取り戻すために非常に有効な治療法となります。
もしオランザピンの服用に対して強い不安を感じている場合は、一人で抱え込まず、必ず主治医に相談してください。不安な点を具体的に伝え、薬の効果や副作用について納得できるまで説明を受けましょう。また、信頼できる医療機関や公的な情報源から正しい情報を得るように努めましょう。ネット上の断定的な表現や個人の極端な体験談だけを鵜呑みにせず、冷静に判断することが大切です。不安を軽減するためにも、医師や薬剤師との良好なコミュニケーションが何よりも重要です。
まとめ|オランザピンは医師の指示通りに正しく服用しましょう
オランザピン(ジプレキサ)は、統合失調症や双極性障害といった精神疾患の治療に用いられる効果的なお薬です。脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで、幻覚や妄想、気分の波などの症状を改善し、患者さんの社会生活機能の回復をサポートすることが期待されます。
効果が高い一方で、体重増加、眠気、血糖値上昇といった副作用が比較的起こりやすいという特徴もあります。特に体重増加や代謝系への影響は、長期的な健康にも関わる可能性があるため、定期的な検査を受け、食事や運動にも気を配ることが重要です。
また、症状が改善したからといって、自己判断で薬の服用を中止したり、用量を減らしたりすることは非常に危険です。離脱症状が現れたり、病気の症状が再燃・悪化したりするリスクを高めます。必ず医師の指示に従い、ゆっくりと、段階的に減薬を進める必要があります。
オランザピンを含む精神科の薬について不安を感じたり、疑問を持ったりすることは自然なことです。インターネット上の不確かな情報に惑わされず、必ず主治医や薬剤師に相談し、正しい情報を得ることが大切です。医師は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な薬剤の選択、用量、服用方法を判断し、副作用のリスクを最小限に抑えるためのサポートを行います。
オランザピンは、正しく理解し、医師の指示通りに服用することで、精神疾患と向き合い、より安定した生活を送るための力強い味方となります。治療について不明な点があれば、遠慮なく医療専門家にご相談ください。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の患者さんの病状や治療に関する医学的アドバイスではありません。特定の症状や治療法については、必ず医師や薬剤師にご相談ください。本記事の情報によって生じたいかなる結果についても、筆者および運営者は一切の責任を負いません。