急に理由もなく不安な気持ちに襲われることがあると、「自分はおかしいのではないか」「何か悪い病気なのではないか」と心配になるかもしれません。こうした急な不安感は、誰にでも起こりうるものですが、頻繁に起こったり、生活に支障が出たりする場合は、その原因を知り、適切に対処することが大切です。
この記事では、「急に不安感に襲われる」のはなぜなのか、考えられる様々な原因から、もしかしたら関係しているかもしれない病気、そして実際に不安に襲われた時にどうすれば良いのか、さらに専門家への相談の目安までを詳しく解説します。この記事を読むことで、ご自身の不安について理解を深め、安心して対処するためのヒントが見つかることを願っています。

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急に不安感に襲われる主な原因
急に不安感に襲われる背景には、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることがあります。必ずしも一つの原因だけではなく、複数の要因が影響し合っていることも珍しくありません。主な原因としては、心理的なもの、身体的なもの、そして日々の生活習慣や環境によるものが考えられます。
心理的な原因
私たちの心の状態は、急な不安感と深く結びついています。特定の出来事や状況だけでなく、過去の経験や自身の性格傾向が影響することもあります。
- 過剰なストレス: 仕事での大きなプレッシャー、学業に関する悩み、人間関係のトラブル、経済的な問題、将来への漠然とした不安など、様々な種類のストレスが積み重なると、心は常に緊張状態になります。こうした慢性的なストレスに加え、突発的なストレス(例: プレゼンテーション直前、試験当日、嫌な電話がかかってきた時など)が引き金となり、急な不安感として現れることがあります。心身がストレスに耐えきれなくなると、警告サインとして不安が急激に高まるのです。
- 過去の心的外傷(トラウマ): 過去に強い恐怖や苦痛を伴う出来事を経験した場合、その時の記憶が完全に処理されずに心の中に残っていることがあります。普段は意識していなくても、特定の音、匂い、場所、状況などがきっかけとなり、突如として当時の恐怖や不安がフラッシュバックし、急な不安感として襲ってくることがあります。これは、脳が危険を感知し、過去の経験から身を守ろうとする反応の一つです。
- 性格傾向: 生まれ持った気質や、育ってきた環境で形成された性格傾向も、不安の感じやすさに関係します。例えば、完璧主義で小さなミスも許せない、常に最悪の事態を想定してしまう、ネガティブな思考パターンに陥りやすい、他者からの評価を過度に気にする、自分の感情を抑圧しやすい、新しい環境や変化を極端に避ける傾向があるといった特徴を持つ人は、そうでない人に比べて不安を感じやすく、急な不安感に見舞われる可能性も高まります。自己肯定感が低いと、「自分には対処できない」という思いが不安を増幅させることもあります。
身体的な原因
意外に思われるかもしれませんが、急な不安感は心の状態だけでなく、身体の状態や機能と密接に関連しています。体調の変化や特定の病気が、直接的に不安症状を引き起こすこともあります。
- 自律神経の乱れ: 自律神経は、私たちの意思とは関係なく、心拍、呼吸、体温調節、消化吸収など、体の様々な機能をコントロールしています。自律神経には、体を活動させる交感神経と、リラックスさせる副交感神経があり、通常はこの二つがバランスを取りながら働いています。しかし、ストレス、不規則な生活、疲労などが原因でこのバランスが崩れ、交感神経が過剰に優位になると、心拍数の増加、呼吸が速くなる、汗をかく、手足の震え、めまい、吐き気といった身体症状が現れます。これらの身体症状を「危険なサインだ」と脳が誤認識し、結果として強い不安感や恐怖感を引き起こすことがあります。これは、体が物理的な危険に備える「逃走・闘争反応」が、実際には危険がない状況で誤作動している状態と言えます。
- ホルモンバランスの変化: ホルモンは体内の様々な機能を調節しており、そのバランスが崩れると心身に影響が出ます。特に女性の場合、月経前症候群(PMS)や更年期にはホルモンバランスが大きく変動しやすく、イライラや気分の落ち込みに加え、急な不安感や動悸といった症状が現れることがあります。甲状腺ホルモンの分泌異常も不安に関係します。甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では、甲状腺ホルモンが過剰になり、代謝が異常に高まることで、動悸、息切れ、手の震えといった症状とともに、不安感やイライラが生じやすくなります。
- 身体疾患: 特定の身体疾患の症状として、あるいは合併症として不安が現れることがあります。例えば、低血糖(血糖値が急激に下がる)は、冷や汗、震え、動悸とともに強い不安感を引き起こします。不整脈や狭心症といった心臓の病気は、動悸や胸の苦しさから不安を招くことがあります。喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような呼吸器系の病気は、息苦しさが不安感を増大させます。貧血による酸素不足も、倦怠感とともに不安につながることがあります。これらの身体的な問題が先にあり、それに伴う不快な感覚が「何か異常だ」という不安や恐怖を引き起こすメカニズムです。
- 物質の影響: 日常的に摂取しているものの中にも、不安感を誘発したり悪化させたりするものがあります。カフェインの過剰摂取は、中枢神経を興奮させ、動悸や手の震えとともに不安感やイライラを引き起こしやすいことが知られています。アルコールの離脱症状としても、不安や震えが現れます。ニコチンも同様に交感神経を刺激します。また、一部の処方薬(例: ステロイド、特定の風邪薬、気管支拡張薬など)や市販薬、違法薬物の使用が、副作用として不安やパニック発作を誘発するケースもあります。
生活習慣や環境
日々の生活習慣や、身を置いている環境も、私たちの心の安定に大きな影響を与えます。見過ごしがちなこれらの要因が、急な不安感の引き金となっていることもあります。
- 睡眠不足: 十分な睡眠は心身の健康にとって不可欠です。慢性的な睡眠不足は、脳の機能、特に感情のコントロールに関わる部位に悪影響を与え、イライラしやすくなる、集中力が低下するといった症状とともに、不安や抑うつ感を増大させることが多くの研究で示されています。寝不足の状態では、ちょっとした刺激に対しても過敏に反応しやすくなり、急な不安感に襲われるリスクが高まります。
- 不規則な生活: 食事や睡眠の時間がバラバラなど、生活リズムが乱れると、体内時計が狂い、自律神経のバランスが崩れやすくなります。これにより、体の様々な機能に不調が生じ、心理的な不安定さが増すことがあります。特に、夜勤が多い仕事や、海外旅行による時差ボケなども、一時的に強い不安感を引き起こす原因となることがあります。
- 運動不足: 適度な運動は、ストレス解消や気分転換になり、心の健康維持に役立つことがわかっています。運動することで、脳内でセロトニンやエンドルフィンといった気分を安定させる神経伝達物質が分泌されます。運動不足が続くと、これらの物質の分泌が滞り、ストレスを発散する機会も減るため、不安を感じやすくなる可能性があります。
- 偏った食事や栄養不足: 脳の機能を維持するためには、バランスの取れた食事が重要です。特定の栄養素、例えばマグネシウム、亜鉛、ビタミンB群、オメガ3脂肪酸などが不足すると、気分の変動や不安につながることが示唆されています。また、カフェインや砂糖を多く含む食品の過剰摂取も、血糖値の急激な変動を引き起こし、不安感を誘発することがあります。
- 環境: 騒がしい場所、人混み、閉鎖された空間(電車内、エレベーターなど)といった特定の環境が、過去の不快な経験と結びついていたり、物理的に逃げ場がないと感じさせたりすることで、急激な不安や恐怖感(パニック発作に似た症状)を引き起こすことがあります。また、引っ越しや転職など、大きな環境の変化もストレスとなり、一時的に不安感が増すことがあります。
急な不安感は病気のサイン?関連する病気
「急に不安感に襲われる」という症状が頻繁に繰り返されたり、日常生活に大きな影響を与えたりする場合は、何らかの精神的な病気が背景にある可能性も考えられます。特に、不安が強く、身体症状を伴う場合は、不安障害と呼ばれる一群の病気と関連が深いことがあります。
パニック障害
パニック障害は、予期せぬ、突然の強い不安発作(パニック発作)を特徴とする病気です。「急に不安感に襲われる」という訴えの代表的なものと言えるでしょう。パニック発作は非常に激しい身体的・精神的な症状を伴い、本人にとっては死の危険を感じるほどの辛い体験となることがあります。
パニック発作とは
パニック発作は、突然始まり、通常10分以内にピークに達する激しい恐怖や不快感のことです。発作中には、以下の症状のうち4つ以上が突然現れ、数分以内にピークに達します。
- 動悸、心臓がドキドキする、脈が速くなる
- 汗をかく
- 体の震え、手足の震え
- 息切れ感、息苦しさ
- のどが詰まる感じ
- 胸の痛みや不快感
- 吐き気、腹部の不快感
- めまい、ふらつき、頭が軽くなる感じ、気が遠くなる感じ
- 現実感の喪失(現実でないような感じ)、離人感(自分から切り離された感じ)
- コントロールを失うこと、または「気が変になる」ことへの恐れ
- 死ぬことへの恐れ
- 体のしびれやぴりぴり感(異常感覚)
- 悪寒または熱感
これらの症状は、心臓発作や呼吸困難など、他の重篤な病気を疑わせるほど激しい場合があり、救急車を呼んでしまう人も少なくありません。しかし、身体的な検査をしても異常は見つからないことがほとんどです。パニック発作そのものは、命に関わるものではありませんが、その苦痛は非常に大きく、再び発作が起こるのではないかという強い不安(予期不安)につながります。
- 予期不安: 一度パニック発作を経験すると、「またあの恐ろしい発作が起こるのではないか」という心配が常に頭から離れなくなります。この持続的な不安を予期不安と言います。予期不安があると、発作が起こりそうな場所や状況を避けるようになり、行動範囲が狭まっていきます。
- 広場恐怖: パニック発作やそれに似た症状が起こった際に、「逃げることが困難」「助けが得られないかもしれない」と感じる場所や状況に対して強い恐怖を感じ、避けるようになる状態を広場恐怖と言います。例えば、電車やバス、人混み、閉鎖された空間(映画館、美容院など)、一人で外出すること、高速道路などを避けるようになることがあります。広場恐怖が進むと、自宅から一歩も出られなくなるケースもあります。
全般性不安障害
全般性不安障害(GAD)は、特定の対象や状況だけでなく、様々なことに対して過度に心配し続けることを特徴とする病気です。パニック障害のように突然強い発作が起こるというよりは、日常的に漠然とした不安や心配が持続し、なかなかコントロールできない状態です。
症状としては、強い不安や心配に加えて、以下のような症状が伴うことが多いです。
- 落ち着きのなさ、そわそわする感じ
- 疲れやすさ
- 集中困難、心が空白になる感じ
- イライラ感
- 筋肉の緊張(肩こり、頭痛など)
- 睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に目が覚める、熟睡できない)
全般性不安障害の人は、仕事、健康、家族、経済状況など、日常生活の色々なことについて「もし〇〇だったらどうしよう」と過度に心配し、その心配が現実的な可能性よりもはるかに大きいのが特徴です。この心配がコントロールできず、長期間(目安として6ヶ月以上)続く場合に診断されます。急な強い不安発作とは異なりますが、慢性的な不安の中で、特定のきっかけで一時的に不安感が強く高まることもあります。
その他の可能性のある病気
急な不安感やそれに類似する症状は、パニック障害や全般性不安障害以外の様々な病気とも関連する可能性があります。
- 社交不安障害: 人前でのスピーチ、会議での発言、初対面の人との会話、食事など、他者から見られたり評価されたりする状況に対して強い恐怖や不安を感じる病気です。予期不安や回避行動を伴う点がパニック障害に似ていますが、不安の対象が社会的な状況に限定される点が異なります。これらの状況で突然、顔が赤くなる、汗をかく、手が震える、言葉が出なくなるなどの身体症状とともに強い不安に襲われることがあります。
- 強迫性障害: 自分でも不合理だと分かっているのに、特定の考え(強迫観念:「鍵を閉め忘れたのではないか」「手が汚れているのではないか」など)が頭から離れず、その不安を打ち消すために特定の行動(強迫行為:何度も鍵を確認する、繰り返し手を洗うなど)を繰り返さずにはいられない病気です。強迫行為をしないと、強い不安に襲われます。
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD): 生命の危機に関わるような恐ろしい出来事(事故、災害、犯罪被害など)を経験した後に発症することがあります。その出来事の記憶が意図せずフラッシュバックし、そのたびに強い恐怖や不安、身体症状(動悸、発汗など)に襲われます。また、関連する状況を避けたり、常に緊張して眠れなくなったりといった症状も見られます。
- うつ病: うつ病は気分の落ち込みを主な症状としますが、多くの患者さんが強い不安感や焦燥感も抱えています。特に、不安が強く出るタイプのうつ病では、「落ち着かない」「いてもたってもいられない」といった苦痛を伴う不安が前面に出ることがあります。
- 身体疾患に伴う不安: 前述したように、甲状腺の病気や心臓病、呼吸器疾患、低血糖、貧血などが原因で不安症状が現れることがあります。これらの場合、まずは原因となっている身体疾患の治療を行うことが優先されます。
これらの病気は、それぞれ特徴的な症状を持ちますが、診断には専門医による詳しい問診や検査が必要です。「急に不安感に襲われる」という症状があるからといって、必ずしもこれらの病気であるとは限りませんが、症状が続く場合や辛い場合は、一度医療機関に相談してみることが大切です。
夜に急な不安感に襲われるのはなぜ?
日中は比較的落ち着いていても、夜になると急に不安感が強くなるという経験を持つ人も少なくありません。これには、夜という時間帯特有の様々な要因が影響しています。
まず、夜間は多くの人が活動を終え、静かな環境で過ごす時間です。日中の忙しさから解放される一方で、外部からの刺激が減り、自分の内面に意識が向きやすくなります。日中は意識的に、あるいは無意識的に抑え込んでいた悩みや心配事、ストレスなどが、静寂の中で浮き彫りになり、不安を増幅させることがあります。
また、夜は一人で過ごす時間が増える傾向にあります。家族が寝静まったり、友人との連絡が途絶えたりすると、孤独感や孤立感を感じやすくなり、これが不安につながることがあります。特に、日頃から人との繋がりが少ないと感じている場合は、夜間の孤独感が不安を強める要因となることがあります。
自律神経の観点からも説明できます。通常、夜になるとリラックスを促す副交感神経が優位になり、心拍数や呼吸が穏やかになり眠りに入りやすい状態になります。しかし、日中の過剰なストレスや不規則な生活などにより自律神経のバランスが崩れていると、夜になっても交感神経が優位な状態が続き、体が興奮してリラックスできません。これにより、動悸や発汗といった身体症状とともに、急な不安感が現れることがあります。
さらに、睡眠に関連する問題も夜間の不安に影響します。寝ようとしてもなかなか眠れない(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早くに目が覚めてしまう(早朝覚醒)といった睡眠障害があると、寝床にいる時間が不安を感じる時間となり、眠れないことへの焦りや不安がさらに不安感を強めるという悪循環に陥ることがあります。
寝る前の習慣も重要です。スマートフォンやパソコンの強い光を寝る直前まで浴びていると、脳が覚醒してリラックスしにくくなります。また、寝る前についネガティブなニュースを見たり、考え事をしたりすることも、不安感を高める原因となります。カフェインやアルコールの摂取も、睡眠を妨げ、夜間の不安を誘発する可能性があります。
このように、夜間の不安は、静寂な環境、孤独感、自律神経のバランス、睡眠の問題、そして寝る前の習慣など、様々な要因が複合的に影響して起こると考えられます。
急な不安感に襲われた時の対処法
急に強い不安感に襲われると、非常に苦しく、「どうにかしたい」と焦ってしまうものです。ここでは、そのような時に役立つ、今すぐできる応急処置と、不安を感じにくい心と体を作るための根本的な対処法をご紹介します。
今すぐできる応急処置
不安感が急激に高まった時、その場で症状を和らげるために試せるいくつかの方法があります。完全に不安が消えるわけではありませんが、少し落ち着きを取り戻す助けになります。
- 場所の移動: 可能であれば、今いる場所から少し移動してみましょう。人混みから離れる、外の空気を吸う、静かな場所に移動するなど、物理的に環境を変えることが気分転換やリラックスにつながることがあります。安全で落ち着ける場所を見つけることが重要です。
- 呼吸法: 不安やパニック状態の時は、呼吸が浅く速くなりがちです。意図的にゆっくりと深い呼吸をすることで、過剰に優位になった交感神経の働きを抑え、リラックスを促す副交感神経を活性化させることができます。腹式呼吸がおすすめです。
- 楽な姿勢で座るか横になります。
- 片方の手をお腹に、もう片方の手を胸に置きます。
- 鼻からゆっくりと息を吸い込み、お腹を膨らませます。胸はあまり動かさないように意識します。(4秒かけて吸う)
- 少しの間息を止めます。(6秒かけて止める)
- 口からゆっくりと、お腹をへこませながら、吸うときの倍くらいの時間をかけて息を吐き出します。(8秒かけて吐く)
- この呼吸を数回繰り返します。
「4-6-8の呼吸法」のように、秒数を意識すると集中しやすくなります。ゆっくりと、呼吸に意識を向けることがポイントです。
- 筋弛緩法: 体の筋肉を意図的に緊張させ、その後一気に緩めることで、体の余分な緊張を和らげる方法です。不安を感じている時は、無意識に体に力が入っていることが多いです。
- 体の各部位(手、腕、肩、顔、首、胸、背中、お腹、足など)に意識を向けます。
- 例えば、まず手にぐっと力を入れて数秒間(5秒程度)保持します。
- 一気に力を抜き、その部位が緩んでいく感覚に意識を向けます。(10秒程度リラックス)
- これを体の他の部位でも繰り返します。
順番に体の各部位を行っていくことで、全身の力が抜けてリラックスできます。
- グラウンディング(五感を使う): 不安な思考にとらわれそうになった時に、意識を「今、ここ」にある自分自身や周囲の環境に戻すための方法です。五感を使って、現実世界に意識を向けます。
- 見る: 周囲にある物体の色や形、数を具体的に観察する。例えば、「赤いものを3つ見つける」「四角いものを2つ見つける」など。
- 聞く: 周囲の音に耳を澄ませる。例えば、「時計の音」「外の車の音」「自分の呼吸音」など。
- 触れる: 体が触れているものや、手で触れられるものの感触に意識を向ける。例えば、「椅子の硬さ」「服の肌触り」「床の感触」「手のひらの温度」など。
- 嗅ぐ: 周囲の匂いを意識する。例えば、「部屋の匂い」「自分の服の匂い」など。可能であれば、好きなアロマなどを持ち歩いて嗅ぐのも良いでしょう。
- 味わう: 口の中に何かあればその味を意識する。飲み物があればゆっくりと味わって飲む。
五感を意識することで、不安な思考から注意をそらし、現実世界に意識を戻すことができます。
- 思考の一時停止: 不安な考えが次々に浮かんでくる場合、「ストップ!」と心の中で叫んだり、「不安な考えは雲のように流れていく」とイメージしたりして、意図的に思考の流れを一時停止させようと試みます。完全に止めるのは難しくても、一時的に距離を置く練習になります。
- 信頼できる人に連絡する: 一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、パートナーに電話やメッセージで連絡し、今の辛い気持ちを話してみることも、安心感につながることがあります。話すことが難しければ、「今ちょっと辛い」と伝えるだけでも良いでしょう。
根本的な対処法
急な不安感の頻度を減らし、不安を感じにくい心身を作るためには、日々の生活習慣を見直したり、考え方の癖を修正したりといった根本的なアプローチが重要です。
- ストレス管理: ストレスは不安の大きな原因となります。自分がどのような状況や出来事でストレスを感じやすいのかを把握し、ストレスを軽減したり、うまく対処したりする方法(コーピングスキル)を身につけることが大切です。好きな音楽を聴く、趣味に没頭する、リラクゼーション法を行う、十分な休息をとるなど、自分に合ったストレス解消法を見つけ、意識的に生活に取り入れましょう。問題の原因に直接対処する「問題焦点型コーピング」と、感情を調整する「情動焦点型コーピング」をバランス良く使うことが効果的です。
- 規則正しい生活: 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるように心がけるなど、規則正しい生活リズムを確立することは、体内時計を整え、自律神経の安定に繋がります。特に睡眠は心身の健康の基盤となるため、十分な睡眠時間を確保し、質の高い睡眠をとれるように睡眠環境を整えることが重要です。寝る前にカフェインやアルコールを避ける、寝る前のスマホを控えるなどの工夫も効果的です。
- 適度な運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、ヨガなど、自分が楽しめる運動を習慣的に行うことは、ストレスホルモンを減らし、幸福感やリラックス効果をもたらす脳内物質(セロトニン、エンドルフィンなど)の分泌を促します。心臓や呼吸器系の機能も向上し、身体的な健康状態が改善されることも、不安を感じにくくなる要因となります。週に数回、短時間でも良いので継続することが大切です。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスの偏りは心身の不調を招きます。特に、血糖値の急激な変動は不安感を誘発しやすいため、砂糖やカフェインの過剰摂取を避け、タンパク質、複合炭水化物、健康的な脂質をバランス良く摂るように心がけましょう。ビタミンやミネラルが豊富な野菜や果物も積極的に取り入れると良いでしょう。特定のサプリメント(マグネシウム、ビタミンB群など)が不安軽減に役立つ可能性も示唆されていますが、使用する際は医師や専門家に相談してください。
- リラクゼーションの実践: 瞑想、マインドフルネス、ヨガ、アロマテラピー、温かいお風呂に入る、軽いストレッチなど、意識的にリラックスする時間を作ることも大切です。これらの活動は、副交感神経の働きを高め、心身の緊張を和らげる効果があります。毎日数分でも良いので、習慣化することを目指しましょう。
- 考え方の癖の見直し: 不安は、特定の出来事や状況に対する私たちの「考え方」によって強く影響されます。常に最悪の事態を想定したり、「〜しなければならない」という強い思い込みがあったりすると、不安を感じやすくなります。認知行動療法では、こうした非合理的な考え方(自動思考)に気づき、より現実的で柔軟な考え方に修正していく練習をします。一人で行うのは難しい場合が多いですが、関連書籍を読んだり、専門家のサポートを受けたりしながら、考え方の癖を見直すことは不安軽減に非常に有効です。
- アサーション: 自分の気持ちや意見を、相手を尊重しつつも正直に適切に伝えるスキル(アサーション)を身につけることも、人間関係のストレスを減らし、自己肯定感を高めることで不安の軽減につながります。
これらの根本的な対処法は、すぐに効果が現れるものではありませんが、継続することで心身が安定し、急な不安感に襲われる頻度を減らしたり、症状が出た時も対処しやすくなったりすることが期待できます。
不安感が続く・強い場合は専門家へ相談を
「急に不安感に襲われる」という症状は、一時的なストレスや疲労によるものであることも少なくありません。しかし、その不安が頻繁に起こる、非常に強い、あるいは日常生活に支障が出ているような場合は、一人で抱え込まず、専門家(医師や心理士など)に相談することを強くお勧めします。適切な診断と治療を受けることで、症状は改善し、より穏やかな日常を送れるようになります。
医療機関の受診目安
どのような場合に医療機関を受診すべきかの目安を以下に示します。これらの項目に当てはまる場合は、一度専門医に相談してみることを検討しましょう。
- 不安感が週に数回以上起こる、または毎日続く: 一時的ではなく、慢性的に不安を感じる状態が続いている。
- 不安によって仕事や学校、人間関係、趣味などの日常生活に大きな支障が出ている: 不安が原因で外出を避けるようになった、集中力が低下して業務に支障が出ている、人との交流が困難になったなど、生活の質が著しく低下している。
- 不安に伴う身体症状(動悸、めまい、不眠など)が辛い、または続く: 身体的な苦痛が大きく、それに伴ってさらに不安が増している。
- 自分で対処しようとしても改善が見られない、または悪化している: リラクゼーションや生活習慣の改善など、セルフケアを試みても効果がない、あるいは症状が進んでいる。
- 「もしかして病気かも?」と強く心配になっている: 不安な状態が続き、病気ではないかとご自身で疑い始めた。
- 死にたい気持ちや自傷行為を考えることがある: 重度の場合、うつ病を合併している可能性もあり、緊急性が高い状態です。
受診先としては、主に精神科や心療内科が挙げられます。心療内科は、心の問題が身体症状として現れている場合(心身症)を専門とすることが多いですが、精神科でも不安障害を含む精神疾患全般を扱っています。どちらを受診すべきか迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談するか、インターネットで「お住まいの地域名 精神科」「お住まいの地域名 心療内科」と検索して情報を集めてみましょう。初診の予約が必要な医療機関が多いので、事前に確認してください。
不安障害のセルフチェックについて
インターネット上や書籍などで、不安障害のセルフチェックリストを見かけることがあります。これらは、ご自身の不安の傾向を知るための参考にはなりますが、あくまで目安であり、診断は医師のみが行えるという点を理解しておくことが非常に重要です。セルフチェックで当てはまる項目が多くても、それだけで「あなたは病気です」と決めつけたり、自己判断で市販薬などを試したりすることは避けてください。
参考に、ご自身の状態を振り返るための簡単なチェックリストの例を以下に示します。(これは診断基準に基づいたものではありません)
項目 | 当てはまる | 少し当てはまる | あまり当てはまらない | 全く当てはまらない |
---|---|---|---|---|
突然、強い動悸、息苦しさ、めまいに襲われることがありますか? | □ | □ | □ | □ |
その際、「死ぬ」「気がおかしくなる」といった強い恐怖を感じますか? | □ | □ | □ | □ |
発作が起こるのではないかという心配が常につきまといますか? | □ | □ | □ | □ |
電車、人混み、閉鎖された場所などを避けるようになりましたか? | □ | □ | □ | □ |
様々なことに対して、過度に心配が止まらない状態が数ヶ月以上続いていますか? | □ | □ | □ | □ |
心配に伴い、体の緊張、疲れやすさ、集中困難、不眠などの症状がありますか? | □ | □ | □ | □ |
人前で何かをする際に、強い不安や恥ずかしさを感じますか? | □ | □ | □ | □ |
特定の考えが頭から離れず、それを打ち消すために特定の行動を繰り返しますか? | □ | □ | □ | □ |
過去の恐ろしい出来事が、突然目の前で起こっているかのように思い出されますか? | □ | □ | □ | □ |
不安のために、仕事や学業、人との付き合いに支障が出ていますか? | □ | □ | □ | □ |
もし、これらの項目に複数当てはまる場合や、ご自身の不安の程度について懸念がある場合は、自己判断せず、専門家へ相談してみることをお勧めします。
専門的な治療法
医療機関を受診し、不安障害やその他の関連疾患と診断された場合、医師は患者さんの症状や状態に合わせて、様々な治療法を提案します。治療法は一つではなく、複数のアプローチを組み合わせて行われることが多いです。
- 精神療法(心理療法): 精神療法は、薬を使わずに心の働きかけによって症状の改善を目指す治療法です。不安障害に対して特に効果が高いとされるのは、認知行動療法(CBT)です。CBTでは、不安を引き起こすような考え方(認知)や行動パターンを特定し、それらをより現実的で建設的なものに変えていくことを目指します。例えば、パニック障害に対しては、発作への誤った解釈(「これは心臓病だ」「死ぬかもしれない」)を修正したり、避けていた場所や状況に段階的に慣れていく Exposure Therapy(暴露療法)が行われたりします。全般性不安障害に対しては、過剰な心配のパターンを認識し、心配に対する考え方や対処法を変える練習をします。その他の精神療法として、対人関係療法なども症状に応じて用いられることがあります。
- 薬物療法: 不安症状が強い場合や、精神療法だけでは十分な効果が得られない場合、薬物療法が選択肢となります。
- 抗うつ薬: 不安障害の治療において、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)といった種類の抗うつ薬が第一選択薬としてよく用いられます。これらは、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)のバランスを整えることで、不安を軽減する効果があります。効果が現れるまでに数週間かかるのが一般的ですが、継続して服用することで不安を感じにくい状態を目指せます。依存性は低いとされています。
- 抗不安薬: ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、比較的即効性があり、強い不安やパニック発作を一時的に抑える効果があります。ただし、長期的な使用は依存のリスクを高める可能性があるため、症状が特に辛い時期に短期間使用したり、必要な時に頓服として使用したりすることが多いです。医師の指示通りに正しく使用することが非常に重要です。
- その他の薬: 症状によっては、ベータブロッカー(動悸や震えを抑える)、気分安定薬、非ベンゾジアゼピン系抗不安薬などが補助的に使用されることもあります。
薬物療法を行う際は、医師の指示に従い、決められた用量・用法を守ることが不可欠です。勝手に中断したり、量を調整したりすることは危険です。また、薬には副作用の可能性もありますが、多くの場合は軽度で一時的なものです。気になる症状があれば、遠慮なく医師に相談しましょう。
- 休養: 不安が強い時は、心身ともに疲弊しています。無理せず十分な休養をとることは、治療の基本となります。必要であれば、仕事や学業を一時的に休むことも検討します。
- 生活指導: 規則正しい生活、適度な運動、バランスの取れた食事といった生活習慣の改善は、薬物療法や精神療法と並行して行うことで、治療効果を高め、再発予防にもつながります。
不安障害の治療は、これらのアプローチを患者さんの状態に合わせて組み合わせながら進められます。治療には時間がかかることもありますが、適切な治療を受けることで、症状は改善し、元の生活を取り戻すことが十分に可能です。決して一人で悩まず、専門家のサポートを求めることが、回復への第一歩となります。
【まとめ】急な不安感、原因を知り適切に対処しよう
「急に不安感に襲われる」という経験は、非常に辛く、不安になること自体がさらなる不安を招くという悪循環に陥りがちです。しかし、この記事で見てきたように、その原因は心理的なもの、身体的なもの、生活習慣や環境によるもの、さらにはパニック障害などの病気まで、多岐にわたります。原因を理解することは、不安に対処するための第一歩となります。
急な不安に襲われた時は、深呼吸や筋弛緩法、グラウンディングといった応急処置を試すことで、一時的に症状を和らげることができます。しかし、根本的な改善を目指すためには、ストレス管理、規則正しい生活、適度な運動、健康的な食事、リラクゼーションといった日々の生活習慣の見直しや、考え方の癖へのアプローチも重要です。
そして最も大切なのは、不安感が頻繁に起こる、症状が強い、日常生活に支障が出ているといった場合は、決して一人で抱え込まず、精神科や心療内科といった専門家へ相談することです。専門医による正確な診断と、精神療法や薬物療法といった適切な治療を受けることで、不安症状は改善し、より穏やかで自分らしい日常を取り戻すことが十分に可能です。
不安は、時に私たちに何か問題があることを知らせるサインでもあります。そのサインに耳を傾け、ご自身の心と体を大切にしてください。必要であれば、迷わず専門家の手を借りましょう。
免責事項
この記事は、「急に不安感に襲われる」という症状について、一般的な情報を提供することを目的としています。医学的なアドバイスや診断を提供するものではありません。個別の症状については個人差があり、この記事の内容が全ての方に当てはまるわけではありません。ご自身の症状について懸念がある場合や、正確な診断・治療が必要な場合は、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。この記事の情報に基づいて自己判断で治療を行わないでください。