不安障害・パニック発作について、「もしかしたら自分もそうかもしれない」「家族が悩んでいる」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。これらは誰にでも起こりうる心の不調であり、決して特別なことではありません。正しく理解し、適切な対処や治療を行うことで、症状を軽減し、穏やかな日常を取り戻すことが可能です。この記事では、不安障害とパニック障害(パニック症)の原因や主な症状、両者の違い、診断、最新の治療法、そしてご自身でできる対処法や相談先について、詳しく解説します。不安や発作でお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。

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不安障害とは
不安障害は、過剰な不安や恐怖を感じ、日常生活に支障をきたす精神疾患の総称です。一口に不安障害といっても、特定の対象や状況に対して強い恐怖を感じるもの、慢性的な心配が続くもの、突然強い不安に襲われるものなど、さまざまな種類があります。不安はもともと危険から身を守るために人間に備わった自然な感情ですが、それが過度になったり、現実の危険とはかけ離れた状況で生じたりする場合に、不安障害と診断されることがあります。
不安障害には、主に以下のような種類が含まれます。
- 全般性不安障害: 特定の対象や状況だけでなく、さまざまなことに対して慢性的に過剰な心配や不安を感じる状態。
- 社交不安障害(社交恐怖): 他人の注目を浴びる状況や人前での活動に対して強い恐怖を感じ、避けてしまう状態。
- 特定の恐怖症: 特定の対象(高所、閉所、動物、特定の状況など)に対して強い恐怖を感じ、避けてしまう状態。
- パニック障害(パニック症): 突然、激しい不安や恐怖と共に動悸や息苦しさなどの身体症状が現れるパニック発作を繰り返す状態。
- 広場恐怖症: パニック発作が起こった際に逃げられない、助けが得られないような状況(電車やバスの中、人混み、広い場所など)を恐れ、避けてしまう状態。
- 分離不安障害: 愛着のある人物から離れることに対して過剰な不安を感じる状態(主に小児期)。
- 選択的緘黙: 特定の状況(学校など)では話すことができるのに、他の特定の状況(自宅など)では話すことができない状態(主に小児期)。
これらの不安障害は、それぞれ特徴的な症状や診断基準を持ちますが、根底には過剰な「不安」や「恐怖」という感情があります。
パニック障害(パニック症)とは
パニック障害は、不安障害の一種として分類されることが多い疾患ですが、その特徴的な症状として「パニック発作」が挙げられます。パニック発作は、突然、理由もなく強い不安や恐怖に襲われ、同時に動悸、息切れ、めまい、手足の震え、冷や汗、吐き気、胸痛、死ぬのではないかという感覚など、様々な身体症状が現れる状態です。この発作は通常、数分から長くても30分以内に収まりますが、その間の苦痛や恐怖は非常に強く、死を意識することもあります。
パニック発作を一度経験すると、「また発作が起きるのではないか」という強い不安(予期不安)を常に抱えるようになります。予期不安から、発作が起こりそうな場所や状況(電車、バス、人混み、会議中など)を避けるようになることも多く、これを「広場恐怖」と呼びます。広場恐怖が強くなると、外出が困難になったり、一人でいることが怖くなったりして、日常生活が著しく制限されてしまうことがあります。
パニック障害は、パニック発作を繰り返すこと、発作に対する予期不安があること、そして発作を避けるための行動(広場恐怖)が見られることなどが特徴です。発作は突発的に起こるため、患者さんにとっては非常に予測不能で恐ろしい体験となります。
不安障害とパニック障害の違い
不安障害は様々な不安を特徴とする疾患の総称であり、パニック障害はその一種です。しかし、臨床的な特徴から、特に「全般性不安障害」など、慢性的な不安を主とする他の不安障害と区別されることがよくあります。ここでは、特に全般性不安障害とパニック障害を比較しながら、両者の違いを明確に見ていきましょう。
定義と主な特徴
特徴 | 不安障害(特に全般性不安障害) | パニック障害(パニック症) |
---|---|---|
主な感情 | 慢性的な心配や不安 | 突発的で強い恐怖(パニック発作) |
症状の現れ方 | 様々なことに対する持続的な不安や心配、落ち着きのなさ、イライラ、集中困難、疲労感、睡眠障害、筋肉の緊張など | 突然起こるパニック発作(動悸、息切れ、めまい、震え、冷や汗、胸痛、死の恐怖など)を繰り返す。予期不安、広場恐怖を伴うことが多い。 |
不安の対象 | 特定の対象や状況だけでなく、健康、仕事、家族、将来など、様々な日常的な出来事に対する漠然とした心配 | パニック発作そのもの、および発作が起こりうる場所や状況 |
持続時間 | 長期間(通常6ヶ月以上)にわたる持続的な不安 | パニック発作自体は短時間(数分〜30分程度)だが、予期不安や広場恐怖は持続する |
焦点 | 将来起こりうる様々なことに対する懸念 | パニック発作による身体感覚やそれに伴う恐怖 |
全般性不安障害では、日常生活の色々なことに対する「漠然とした、しかし持続的な心配」が中心となります。一方、パニック障害では、特定の場所や状況でなくても突然襲ってくる「パニック発作」とその後の「予期不安」「広場恐怖」が中心的な特徴となります。
症状の現れ方
不安障害(全般性不安障害など)の症状は、比較的持続的で穏やかな場合が多いですが、常に心が張り詰めたような状態が続きます。身体症状としては、肩こりや頭痛といった筋肉の緊張に関連するものや、疲労感、睡眠障害などがよく見られます。
一方、パニック障害のパニック発作は、非常に急激かつ強烈に現れます。身体症状が顕著で、まるで心臓発作でも起こったかのような苦しさや恐怖を伴います。発作が収まると、身体症状は一旦落ち着きますが、「またいつ発作が起きるかわからない」という不安が強く残り、それが予期不安や広場恐怖につながり、行動の制限を引き起こします。
つまり、不安障害全般が「慢性的な不安」を特徴とするのに対し、パニック障害は「突発的な激しい恐怖発作」が中心的な特徴であり、その後の経過で予期不安や広場恐怖が加わってくるという違いがあります。
不安障害・パニック障害の原因
不安障害やパニック障害は、一つの原因だけで起こるのではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。主な原因としては、生物学的要因、心理的・社会的要因が挙げられます。
生物学的要因
脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが関与していると考えられています。特に、感情や不安の調整に関わるセロトニン、ノルアドレナリン、GABAといった神経伝達物質の機能異常が指摘されています。これらの物質の働きがうまくいかないと、不安を感じやすくなったり、不安を抑えられなくなったりすることがあります。
また、脳の扁桃体や海馬といった、恐怖や記憶に関わる部位の機能異常も関連があると言われています。遺伝的な要因も無視できません。不安障害やパニック障害になりやすい体質が遺伝する可能性が示唆されていますが、特定の遺伝子だけで決まるわけではなく、あくまで「なりやすさ」に関わる程度と考えられています。
心理的・社会的要因(ストレス、自律神経など)
人生における様々なストレスが発症の大きな引き金となります。例えば、
- 環境の変化: 引っ越し、転勤、転職、入学、卒業など
- 人間関係の悩み: 家族、職場、友人関係でのトラブル
- ライフイベント: 結婚、出産、死別、病気
- 過労や睡眠不足
- 過去のトラウマ体験: 事故、災害、虐待など
といった出来事が、心理的な負担となり、不安や恐怖を感じやすくなることがあります。特に、ストレスが長期にわたって続いたり、複数のストレスが重なったりすると、発症リスクが高まります。
また、ストレスは自律神経のバランスを乱します。自律神経は、心拍、呼吸、血圧、消化といった体の機能を無意識のうちに調整していますが、バランスが崩れると動悸、息切れ、めまい、吐き気、冷や汗など、パニック発作と似た身体症状を引き起こすことがあります。これらの身体症状を「これは大変な病気かもしれない」「死んでしまうかもしれない」と誤って解釈することで、さらに不安が増強され、パニック発作へとつながるというメカニズムも考えられています。
なりやすい人の特徴
不安障害やパニック障害になりやすい性格傾向や特徴も指摘されています。
- 心配性、神経質な性格: 物事をネガティブに捉えやすく、些細なことでも深く悩んでしまう傾向。
- 完璧主義、真面目な性格: 自分にも他人にも厳しく、目標達成できないことに強い不安を感じやすい。
- 回避傾向: 不安や困難な状況を避けようとする傾向が強く、問題解決能力が低下しやすい。
- 依存心が強い: 一人でいることや決断することに不安を感じやすい。
- ストレス対処が苦手: ストレスをうまく発散したり、乗り越えたりする方法を知らない、あるいは実行できない。
- 過去にトラウマ体験がある: 特に幼少期の不快な経験は、その後のストレス耐性や不安傾向に影響を与えることがある。
これらの性格や傾向を持っている人が、先に述べた生物学的要因や社会的なストレスにさらされることで、不安障害やパニック障害を発症しやすくなると考えられています。ただし、これらの特徴があるからといって必ずしも発症するわけではありませんし、これらの特徴がない人でも発症することはあります。
不安障害・パニック障害の主な症状
不安障害の種類によって中心となる症状は異なりますが、ここでは一般的な不安障害の症状と、パニック障害に特徴的なパニック発作の症状について詳しく見ていきます。
不安障害の症状の種類(全般性不安障害など)
不安障害全般に共通するのは「過剰な不安や心配」ですが、その対象や現れ方によって異なります。
- 全般性不安障害:
様々なこと(仕事、学業、家族、健康、お金など)に対する過剰な心配や不安が持続する。
心配をコントロールできないと感じる。
落ち着きのなさ、緊張感、イライラ、集中困難、疲労感、睡眠障害、筋肉の緊張(肩こり、頭痛)などの身体症状を伴う。 - 社交不安障害:
他人から否定的に評価されることへの強い恐怖。
人前での発表、人との会話、人前での食事など、他人の注目を浴びる状況を避ける。
顔が赤くなる、汗をかく、手が震える、どもるといった身体症状への強い不安。 - 特定の恐怖症:
特定の対象(蛇、蜘蛛、高所、閉所、注射、飛行機など)に対する強い恐怖。
恐怖の対象に近づくと、パニック発作に似た強い身体症状が現れることがある。
恐怖の対象を積極的に避ける。 - 広場恐怖症:
パニック発作が起こった際に逃げられない、助けが得られない状況(公共交通機関、人混み、屋外、一人で外出するなど)を恐れる。
そのような状況を避ける、あるいは誰か同伴でないと行けない。 - 分離不安障害:
愛着対象からの分離に対する過剰な不安や苦痛。
愛着対象が近くにいないと家や学校に行けない、一人で寝られないなど。
愛着対象の身に何か起こるのではないかという心配。
これらの不安は、単なる「心配性」のレベルを超えており、学業、仕事、人間関係、社会活動といった日常生活に著しい支障をきたします。
パニック発作の症状
パニック発作は、突然襲ってくる激しい恐怖と共に、以下のような身体的・精神的症状が一度に複数現れるのが特徴です。厚生労働省のウェブサイトにあるパニック発作の用語解説では、**「突然激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達するものです。動悸、発汗、息苦しさ、どうにかなってしまいそうな感じなど複数の症状が同時に現れます。パニック障害に限らず、あらゆる不安障害で生じる可能性があります。」**と説明されています。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の診断基準では、13項目の症状のうち、4つ以上が突然現れ、10分以内にピークに達すると定義されています。
- 身体症状:
動悸、心臓がどきどきする、または脈が速くなる
発汗
体の震えまたは手足の震え
息切れ感、または息苦しさ
窒息感
胸痛または胸部の不快感
吐き気または腹部の不快感
めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
寒気またはほてり感
手足のしびれまたはうずき感(知覚麻痺または感覚異常) - 精神症状:
現実感喪失(現実でない感じ)または離人感(自分自身から離れている感じ)
コントロールを失うこと、または気が変になることへの恐怖
死ぬことへの恐怖
これらの症状は非常にリアルで、初めて経験した人は心臓発作などの重篤な病気ではないかと救急病院を受診することも少なくありません。検査の結果、身体的な異常が見つからない場合に、精神的な問題としてパニック発作が疑われます。
不安障害とパニック障害の併発について
不安障害の各タイプは独立して診断されるものですが、実際には複数の不安障害を併発したり、他の精神疾患(うつ病、双極性障害、強迫性障害など)や身体疾患と併発したりすることも少なくありません。
特に、パニック障害の患者さんの多くが、パニック発作が起きていない時間帯にも、発作への予期不安や、それ以外の様々なことに対する慢性的な不安(全般性不安障害に近い状態)を抱えていることがあります。また、広場恐怖症はパニック障害と密接に関連しており、パニック障害の患者さんの多くが広場恐怖症を伴います。
このように、不安障害の各タイプは互いに関連し合ったり、併発したりしながら、患者さんの苦痛を増大させることがあります。そのため、診断や治療にあたっては、単一の診断名にとらわれず、患者さんが抱える全体的な不安や恐怖、身体症状を包括的に評価することが重要です。
不安障害・パニック障害が悪化するとどうなる?
不安障害やパニック障害が適切に治療されないまま悪化すると、日常生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。
- 日常生活への支障:
パニック発作や予期不安、広場恐怖によって外出が困難になり、仕事や学業を続けられなくなる。
人間関係(家族、友人、同僚)を避けるようになり、孤立を深める。
趣味や楽しみを諦め、生活の質(QOL)が著しく低下する。 - 他の精神疾患の併発:
常に不安を抱えたり、行動が制限されたりすることから、二次的にうつ病を発症することが多い。
アルコールや薬物に依存して不安を紛らわせようとする人もいる。 - 身体的な不調:
自律神経の乱れが続き、胃腸の不調、頭痛、肩こり、疲労感が慢性化する。
睡眠障害が悪化し、心身の疲弊が進む。 - 経済的な問題:
仕事や学業の継続が困難になり、経済的に困窮する可能性がある。
このように、不安障害やパニック障害は、放置すると心身の健康を損ない、生活のあらゆる側面に悪影響を及ぼす可能性があります。早期に専門家の助けを求めることが非常に重要です。
パニック発作のピークと持続時間
パニック発作は、**突然発症し、通常10分以内に症状が最も強くなり(ピーク)、その後、一般的には数分から30分程度で自然に収まります。** 中には1時間近く続く場合もありますが、これは比較的稀です。パニック発作の特徴は、この「突然の発症」と「短時間でのピーク」、そして「自然に収まる」という点です。
発作中は、死ぬのではないか、気が狂ってしまうのではないか、といった強い恐怖を感じますが、実際に命にかかわるような事態に発展することはほとんどありません。発作が終わった後も、身体の動揺感や疲労感、そして「また発作が起きるのではないか」という予期不安が残ることが一般的です。
急な強い不安感はパニック障害?
急に強い不安感や恐怖感に襲われた場合、それはパニック発作である可能性が考えられます。特に、その不安感や恐怖感に加えて、先に挙げたパニック発作の身体症状(動悸、息切れ、めまい、震えなど)が複数伴い、かつそれらが突然始まり短時間でピークに達するようであれば、パニック発作である可能性はさらに高まります。
しかし、急な強い不安感や身体症状は、パニック障害以外の様々な原因でも起こり得ます。例えば、他の不安障害(特定の恐怖症など)の症状として、あるいは甲状腺機能亢進症や低血糖などの身体疾患、不整脈などの循環器疾患、あるいは薬剤の副作用として現れることもあります。
したがって、「急な強い不安感=パニック障害」と自己判断せず、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けることが重要です。医師は、症状の現れ方、頻度、持続時間、他の身体的な病気の可能性などを総合的に判断して、正確な診断を行います。
不安障害・パニック障害の診断
不安障害やパニック障害の診断は、主に医師による問診と、必要に応じた心理検査、そして他の病気を除外するための身体検査に基づいて行われます。
診断基準(DSM-5など)
精神疾患の診断は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)や、アメリカ精神医学会(APA)の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)といった、国際的に合意された診断基準を用いて行われるのが一般的です。現在、広く使用されているのはDSM-5です。
DSM-5では、各不安障害やパニック障害について、満たすべき症状の種類、数、持続期間、日常生活への影響といった具体的な診断基準が定められています。医師は、これらの基準に照らし合わせながら、患者さんの訴えや観察結果を基に診断を行います。
ただし、診断基準はあくまで目安であり、患者さんの状況は一人ひとり異なります。経験豊富な医師が、基準だけでなく、患者さんの全体像を把握した上で総合的に判断することが重要です。
医療機関での診察・検査
不安や発作で悩んでいる場合は、精神科または心療内科を受診しましょう。初めての受診では、医師による丁寧な問診が行われます。
- 問診:
どのような症状があるか(不安、恐怖、身体症状など)
症状がいつから始まったか、どのくらいの頻度で起こるか
どのような状況で症状が現れやすいか(パニック発作の誘因や広場恐怖の対象)
症状の程度や持続時間
症状によって日常生活にどのような影響が出ているか
過去の病歴(身体的・精神的)
現在服用している薬やサプリメント
家族に同じような症状の人がいるか
ストレスの原因となる出来事
飲酒や喫煙の習慣
睡眠や食欲の状態
医師はこれらの情報から、どのタイプの不安障害であるか、あるいはパニック障害であるかを判断するための手掛かりを得ます。
- 心理検査:
質問紙法(不安や抑うつの程度を測る尺度など)
投影法
知能検査、性格検査など
心理検査は、診断を補助したり、患者さんの心理的な特徴や傾向を理解したりするために行われることがあります。
- 身体検査:
血液検査、心電図検査、脳波検査、CT/MRI検査など
特にパニック発作を訴える患者さんの場合、動悸や息切れ、胸痛といった症状が他の身体疾患(心臓病、呼吸器疾患、内分泌疾患、神経疾患など)によるものではないかを除外するために、身体的な検査が行われることがあります。これらの検査で異常が見つからず、精神的な要因が疑われる場合に、不安障害やパニック障害として診断されることが多くなります。
診断は治療方針を決める上で非常に重要です。症状を正確に伝え、医師とのコミュニケーションを密にすることが、適切な診断につながります。
不安障害・パニック障害の治療法
不安障害やパニック障害の治療には、薬物療法と精神療法が主に用いられます。これらの治療法は、単独で行われることもありますが、多くの場合、組み合わせて行われます。
薬物療法
脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、不安やパニック発作を軽減する効果が期待できます。主に以下のような種類の薬が用いられます。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI): セロトニンの働きを強めることで、不安や抑うつ気分を改善します。不安障害やパニック障害の第一選択薬として広く使用されています。効果が現れるまでに通常2週間〜数週間かかりますが、依存性は少なく、長期的に使用できます。
- セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI): セロトニンとノルアドレナリンの両方の働きを強めます。SSRIと同様に不安や抑うつに効果があり、SSRIで効果が不十分な場合などに用いられることがあります。
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬: 即効性があり、強い不安やパニック発作を一時的に抑えるのに有効です。しかし、依存性や眠気、ふらつきといった副作用のリスクがあるため、頓服薬として使用したり、治療の初期に短期間だけ使用したりすることが推奨されます。
- その他の薬: 三環系抗うつ薬、βブロッカー(動悸や震えといった身体症状に効果)、タンドスピロン(セロトニン受容体に作用し不安を軽減)、抗精神病薬(ごく一部の場合)などが症状に応じて使用されることがあります。
薬の種類や用量は、患者さんの症状の程度、タイプ、年齢、他の病気の有無などを考慮して医師が慎重に決定します。自己判断で服用量を変えたり、中止したりせず、必ず医師の指示に従うことが重要です。
精神療法(認知行動療法など)
不安や恐怖に対する考え方や行動パターンに働きかけることで、症状を軽減し、不安への対処スキルを身につけることを目指します。薬物療法と並んで不安障害・パニック障害の有効な治療法とされています。
- 認知行動療法(CBT): 最も広く行われている精神療法の一つです。不安や恐怖を引き起こす「認知(考え方)」の歪みを修正し、それに基づいて起こる「行動」を変えていくことで、症状の改善を目指します。
パニック障害に対する認知行動療法では、パニック発作の身体症状に対する破局的な解釈(「死ぬのではないか」「気が変になる」など)を修正したり、避けていた場所や状況に段階的に慣れていく練習(曝露療法)を行ったりします。
全般性不安障害に対する認知行動療法では、過剰な心配や不安が生じる考え方のパターンを特定し、より現実的で建設的な考え方に変えていく練習や、リラクゼーション法などを学びます。 - 曝露療法: 恐怖を感じる対象や状況に、安全な環境で意図的に、しかし段階的に触れていく治療法です。避けていた状況に慣れることで、「思っていたほど怖いことは起こらない」という学習を促し、恐怖を克服することを目指します。特定の恐怖症や広場恐怖症、社交不安障害などに有効です。
- 不安管理トレーニング: 不安に対する対処スキル(リラクゼーション法、呼吸法、問題解決スキルなど)を学ぶトレーニングです。
精神療法は、専門的な知識とスキルを持った医師、臨床心理士、精神保健福祉士などによって行われます。数週間から数ヶ月にわたって継続的に行うことで効果が得られます。
その他の治療法
薬物療法や精神療法以外にも、不安障害やパニック障害の症状軽減に役立つ補助的なアプローチがあります。
- 運動: 適度な運動は、ストレス解消や気分転換になり、自律神経のバランスを整える効果も期待できます。ウォーキング、ジョギング、ヨガなどが推奨されます。
- 生活習慣の改善: 規則正しい生活リズム(特に睡眠時間の確保)、バランスの取れた食事、カフェインやアルコールの制限(これらは不安を増強させることがあります)などが重要です。
- リラクゼーション法: 筋弛緩法、腹式呼吸、瞑想(マインドフルネス)などは、心身の緊張を和らげ、不安を軽減するのに役立ちます。
- マインドフルネス: 今この瞬間の体験に意図的に注意を向け、それを評価せずありのままに受け入れる練習です。不安な考えにとらわれず、距離を置いて観察する力を養うことで、不安に上手に対処できるようになります。
これらの補助的なアプローチは、主要な治療法と組み合わせて行うことで、より効果的な症状の改善が期待できます。
以下に、薬物療法と精神療法の主な特徴をまとめます。
特徴 | 薬物療法 | 精神療法(認知行動療法など) |
---|---|---|
効果発現 | 比較的速効性があるものも多い(特に頓服) | 効果が現れるまでに時間がかかることが多い |
効果のメカニズム | 脳内の神経伝達物質の調整 | 考え方や行動パターンの修正、対処スキルの獲得 |
依存性 | ベンゾジアゼピン系には注意が必要 | 基本的に依存性はない |
持続性 | 服用を中止すると症状が再燃しやすい | 治療で身につけたスキルは長期的に役立つ |
主な担い手 | 医師 | 医師、臨床心理士、精神保健福祉士など |
費用 | 薬代がかかる | セッション料がかかる |
どちらの治療法が適しているか、あるいは両方を組み合わせるかについては、患者さんの症状、重症度、ライフスタイル、希望などを考慮して医師と相談しながら決定します。
自分でできる対処法・セルフケア
専門家による治療と並行して、ご自身でできる対処法やセルフケアを取り入れることも、不安や発作を管理し、回復を促す上で非常に重要です。
発作時の具体的な対処法
パニック発作が起こりそうになったり、実際に起こってしまったりしたときに試せる具体的な対処法をいくつかご紹介します。
- 安全な場所へ移動する: 可能であれば、人混みを避け、落ち着ける場所へ移動しましょう。座るか横になるのが良いでしょう。
- 腹式呼吸を意識する: 発作時は呼吸が速く浅くなりがちです。ゆっくりと鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと長く(吸うときの倍くらいの時間をかけて)吐き出す腹式呼吸を意識しましょう。呼吸に意識を集中することで、身体の緊張を和らげ、過換気を防ぐことができます。
- 今の状況に意識を集中する(グラウンディング): 発作中は現実感がないように感じたり、思考がパニックに陥ったりしやすいです。意識を「今、ここ」に戻すために、以下のことを試してみてください。
見えるものを5つ数える。
触れるものを4つ見つけて触る。
聞こえる音を3つ聞く。
匂いを2つ探す。
味を1つ感じる(水を飲むなど)。 - 筋肉の緊張を意図的に弛緩させる: 手足の指を強く握ったり開いたり、肩をすくめたり下ろしたりするなど、意図的に筋肉に力を入れてから一気に力を抜くことを繰り返すと、体の緊張が和らぎます。
- 信頼できる人に連絡する: 可能であれば、家族や友人など、信頼できる人に連絡を取り、声を聞いたり、そばにいてもらったりすることで安心感を得られます。
- 「これはパニック発作だ。すぐに収まる」と心の中で繰り返す: 発作中に「大変なことが起こっている」「死ぬかもしれない」といった破局的な考えにとらわれると、さらに不安が増強されます。発作の症状は不快ではあるものの、危険なものではなく、一時的なものであることを思い出し、「これはパニック発作だ」「これは不安の症状だ」「すぐに収まる」と心の中で唱えることで、冷静さを保ちやすくなります。
- 注意をそらす(ディストラクション): 好きな音楽を聴く、簡単な計算をする、目の前の風景を詳細に観察するなど、意識をパニック発作から別のものに意図的にそらすことも有効です。
これらの対処法は、発作を完全に止めるというよりは、発作中の苦痛を軽減し、発作が収まるのを待つためのものです。練習を重ねることで、いざという時に役立つようになります。
日常生活での工夫
日頃から以下のことに気を配ることで、不安を軽減し、発作の予防につなげることができます。
- 規則正しい生活リズム: 毎日同じ時間に寝て起きる、食事の時間を決めるなど、生活リズムを整えることは、自律神経の安定につながります。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスの偏りは心身の不調を引き起こすことがあります。特にビタミンB群やミネラルは神経系の働きに関わるため、積極的に摂りましょう。
- 適度な運動: ウォーキング、軽いジョギング、ストレッチ、ヨガなど、無理のない範囲で継続できる運動を見つけましょう。エンドルフィンが分泌され、気分が向上したり、ストレスが解消されたりします。
- カフェインやアルコールの制限: カフェインは交感神経を刺激し、動悸や震えといった身体症状を引き起こすことがあります。アルコールは一時的に不安を紛らわせるように感じても、長期的には不安を増強させたり、睡眠の質を低下させたりします。
- 禁煙: タバコに含まれるニコチンも心拍数を上げ、不安を増強させる可能性があります。
- リラクゼーションの習慣化: 腹式呼吸、筋弛緩法、瞑想などを日常的に取り入れ、心身の緊張を和らげる習慣をつけましょう。
- ストレスマネジメント: ストレスの原因を特定し、それを軽減する方法(問題解決、アサーション、休息など)を学び実践することが重要です。完璧を目指さず、時には「まあいいか」と諦めることも必要です。
- 十分な睡眠: 睡眠不足は不安やイライラを増強させます。質の良い睡眠を十分にとるように心がけましょう。寝る前にスマホやパソコンを見るのは避け、リラックスできる環境を整えましょう。
- 思考記録をつける: 不安を感じた状況、その時に考えたこと、そしてその後の行動や感情を記録することで、自分の思考パターンや不安の引き金となる状況を客観的に把握し、認知行動療法の助けにもなります。
- 小さな成功体験を積み重ねる: 不安や恐怖から避けていた状況に、少しずつ、段階的に挑戦してみましょう。例えば、近所のコンビニまで一人で行ってみる、電車に一駅だけ乗ってみるなど。小さな成功体験を積み重ねることで、自信を取り戻し、行動範囲を広げることができます。
これらのセルフケアは、すぐに劇的な効果が現れるものではありませんが、継続することで徐々に不安への耐性がつき、症状の改善につながります。根気強く取り組むことが大切です。
どこに相談すれば良いか
不安や発作で悩んでいる場合、一人で抱え込まず、専門家や相談機関に助けを求めることが最も重要です。
精神科・心療内科への受診
不安障害やパニック障害は、精神科や心療内科の専門医による診断と治療が必要です。
- 精神科: 主に精神疾患全般の診断と治療を専門としています。
- 心療内科: 心身症(ストレスが原因で身体に症状が現れる病気)を中心に診療しますが、不安障害やうつ病なども診療範囲としています。
どちらの科を受診すべきか迷う場合は、まずは心療内科を受診してみるのが良いでしょう。身体症状が強い場合は、先に内科を受診し、身体的な異常がないことを確認した上で、精神科や心療内科を紹介してもらうこともあります。
受診する際には、これまでの症状の経過や、現在困っていることなどをまとめておくと、診察がスムーズに進みます。初めての受診は緊張するかもしれませんが、専門家はあなたの悩みに真摯に向き合ってくれます。
その他の相談窓口
医療機関以外にも、不安や悩みについて相談できる窓口があります。
- 保健所・精神保健福祉センター: 各自治体に設置されており、精神保健福祉に関する専門的な相談を受け付けています。電話相談や対面相談が可能です。医療機関への受診を検討している場合の相談先としても役立ちます。
- いのちの電話: 危機的な状況にある方や、精神的に追い詰められている方のための電話相談窓口です。不安が強く、誰かに話を聞いてほしいときに利用できます。
- NPO法人などによる相談窓口: 不安障害やパニック障害に特化した自助グループや、精神疾患に関する情報提供や相談を行っているNPO法人などがあります。同じような悩みを抱える人との交流が、支えになることもあります。
- かかりつけ医: すでに体の病気などでかかりつけ医がいる場合、まずはかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。症状について話を聞いてもらい、必要に応じて専門医を紹介してもらうことができます。
どこに相談するかは、ご自身の状況や希望によって異なります。まずは話しやすいと感じるところから一歩踏み出してみましょう。
まとめ
不安障害やパニック障害は、過剰な不安や恐怖が原因で日常生活に支障をきたす精神疾患です。特にパニック障害は、突然の激しいパニック発作を特徴としますが、不安障害全体としては慢性的な心配が続くタイプなど様々です。これらの疾患は、生物学的要因、心理的・社会的要因、性格傾向などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。
主な症状は、不安や心配、動悸、息切れ、めまい、震えなどの身体症状、そしてそれらに伴う回避行動です。放置すると、日常生活への影響が大きくなったり、うつ病などを併発したりする可能性があります。
診断は精神科や心療内科の医師による問診や心理検査などで行われます。治療法としては、脳内のバランスを整える薬物療法や、考え方や行動パターンに働きかける精神療法(特に認知行動療法)が有効です。多くの場合、これらの治療法を組み合わせて行います。
また、ご自身でできるセルフケアとして、発作時の対処法(腹式呼吸、グラウンディングなど)や、日常生活での工夫(規則正しい生活、運動、リラクゼーション、ストレスマネジメントなど)を取り入れることも、症状の改善に大きく役立ちます。
不安や発作で悩んでいる場合は、一人で抱え込まず、精神科や心療内科といった専門機関を受診することをお勧めします。また、保健所や相談窓口なども利用できます。
不安障害やパニック障害は、適切な診断と治療を受けることで、症状をコントロールし、回復を目指すことが十分に可能な病気です。一歩踏み出して、専門家のサポートを得ながら、穏やかな日々を取り戻しましょう。
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。不安や発作でお悩みの方は、必ず医療機関を受診し、専門医の指示に従ってください。